ジャズの歪みの本流は、実は「ガッツリ歪ませる」ことではなく「強く弾いたときに、ちょっとだけ歪む」セッティングです。その筆頭がケンタウルス系――伝説の Klon Centaur と、その系譜のペダルたち。マイク・モレノの“あの音”の秘訣も、後継機 KTR のかけっぱなしにあります。本家を高校時代に所有し(そして売って大後悔し)、KTR・Jan Ray・Soul Food と渡り歩いてきた経験から、ジャズ目線で整理します。
30秒の結論
- ケンタ系のキャラ=ローミッドが出て、音にハリ(TS系ほどミッドは出ない)。
- 使い方の基本はゲインをほぼゼロ・レベルを上げて「歪まないまま個性だけ足す」。
- マイク・モレノ=Klon KTR のかけっぱなし。ちょっと歪んでミドルが出て、上が軽く圧縮される“あの音”。
- Vemuram Jan Ray(市場価格 約5万円)=癖のないフラット系で音が前に出る。長く使った実体験あり。
- 本家 Centaur(今や100万円級)を買う必要はありません。KTR・Jan Ray・Sick As あたりで十分戦えます。
ケンタウルス系とは(売って大後悔した話から)
Klon Centaur(クロン・ケンタウルス)は、「繋ぐだけで音が良くなる」と伝説になったオーバードライブ。生産終了後に価格が高騰し続けている、エフェクター界でいちばん有名な“伝説”です。
実は大倉も高校生の頃に本物を使っていました。当時の定価は6万円ほど。それが値上がりし始めた頃に10万円で売却――今や100万円級ですから、人生で指折りの「売って後悔した機材」です。ただ、音の方は安心してください。現行の後継機・クローンで十分にあの方向の音は手に入ります。
「本家と全く同じ音」のクローンもある(冒頭写真の Sumo Long Tail #873)
クローンと言っても精度はピンキリですが、なかには本家とまったく同じ音が出る個体もあります。冒頭写真の Sumo Long Tail(#873) がまさにそれで、一台ずつ本物(Klon Centaur)と弾き比べながら最終調整し、部品を選定して仕上げられた一台。ここまで作り込まれると、もう本家を探す理由は「音」以外(コレクション欲やロマン)しか残りません。
ジャズでの使い方(歪まないまま、個性だけ足す)
ジャズでのケンタ系は、ゲインをほぼゼロに絞り、レベルを上げるのが定番。音色は歪まないのに、ローミッドの押し出しとハリというケンタの個性だけが乗ります。強くピッキングしたときだけ、ほんの少し歪む――この「軽くだけ」の質感が、クリーン主体のジャズと相性抜群です。
「電源オフでバッファーだけ」という渋い運用
ケンタ系は繋ぐだけで音が変わります。正体は内蔵の優秀なバッファー。効果は「ローが増える」といった分かりやすい変化ではなく、音にハリが出て、1段レベルが上がったような感じです。「ケンタを繋ぐ=このバッファーの音が欲しい」という人は多く、電源をオフにしたまま繋ぎっぱなしにする運用や、ケンタのバッファー部分だけを取り出したペダル、自作界隈でのバッファー単体製作まで存在するほど。大倉も教室や練習ではよくやります(現場でそのためだけに1台増やすことはしませんが)。
Klon KTR=マイク・モレノの音
KTR は Klon 本家による Centaur の公式後継機。バッファーのオン/オフを切り替えるスイッチも付いた、現実的なサイズの1台です。所有して弾き比べた印象では、初代ケンタとは結構違っていて、より厚みのある音。弾いていて音が太くなる系です。
そして KTR と言えばマイク・モレノ。常にかけっぱなしで、あの「ちょっと歪んでいて、ミドルがぐっと出て、高域が軽く圧縮されたコンプ感のある音」を作っています。所有しているとよく分かりますが、あれは思いっきり KTR の音です。本人はセッティングを隠しがちですが、おそらくゲイン9時あたり・レベルそこそこ上げ・トーンは結構絞りと推測しています。モレノの骨格サウンドは KTR+リバーブ(blueSky)+ディレイ(Strymon El Capistan)の3点。モレノ好きはまずケンタ系を1個入れると、一気に近づきます(→ Strymonリバーブ比較(blueSkyの話))。
Vemuram Jan Ray(長く使った実体験と実値)
国産ハイエンドの Vemuram Jan Ray(市場価格 約5万円)も、ずっと使っていた1台。キャラは癖のないフラット系で、音を前に出しながら、重心を下げてどっしりさせる方向です。ケンタ系のローミッドとはまた違う、品の良い押し出し。
大倉の Jan Ray 実セッティング
ゲイン=ほぼゼロ/レベル=オフ時と同じ音量になる位置/サチュレーション=絞り気味(背面の小ネジ=内部トリマーをマイナス方向)/EQ=ほぼフラット。つまりここでも「歪まないまま個性だけ足す」使い方です。――なお Jan Ray は値上がりした時期に手放してしまい、今でもすごく後悔しています。置いとったらよかった。
その他のケンタ系(試して分かった一言キャラ)
- Voyager=すごくクリーンで、元のケンタより音が太いイメージ。歪ませた時の質感は本家と違うが、かっこいいケンタ系。
- Sick As(現所有)=ゲインを絞るとクリーンミックスが自動的に増える設計で、ゲインゼロでもブースター的に使える万能機。所有バージョンは本家よりクリアな音色感(バージョン違いが多いので注意)。
- Electro-Harmonix Soul Food=ノーマルのケンタよりミッドが出て音が粘る。ジャズよりロック向きの印象。安価にケンタ方向を試したい人に。
- 中華クローン(小さい銀筐体のもの)=実は思いのほか良くて、たまに引っ張り出すとびっくりする。ただしトラブルが怖いので現場には持っていかない=自宅で遊ぶ用。
ケンタ系はクローンが本当に多いジャンル。それだけ世界中のギタリストが「あの音」を欲しがってきた、ということでもあります。
RAT・TS系との使い分け(ジャズの歪みマップ)
- RAT=強い歪みが欲しいとき。フュージョン/フリースタイル向け。→ RATのレビュー・使い方・MOD
- TS系=ミッドの出るブースター枠。ドライブ0付近でレベルを上げる。
- ケンタ系=ローミッド+ハリ。TSよりミッドは控えめで、上品に音が立つ。
- Jan Ray=フラットで癖なし。音が前に出て、どっしり。
全体の地図は ジャズで使うエフェクター完全ガイド をどうぞ。
こんな人におすすめ
- マイク・モレノ系の音に憧れている人(まずケンタ系を1個)。
- クリーン主体で「強く弾いたときだけ軽く歪む」質感が欲しい人。
- ブースターを探していて、EP Boosterとは違う方向(ローミッド系)も聴き比べたい人(→ EP Booster レビュー)。
- 伝説の本家が気になるけど、100万円は出せないすべての人。
よくある質問(FAQ)
Q. ケンタウルス系ってどんな音のペダル?
A. ローミッドが出て、音にハリが乗るオーバードライブです。ゲインを絞ればクリーンのまま個性だけ足せて、強く弾いたときだけ軽く歪む――このニュアンスがクリーン主体のジャズと好相性です。
Q. ジャズに合うケンタ系はどれ?
A. モレノ方向なら KTR、癖のないフラット系なら Jan Ray(約5万円)、万能で現実的なのは Sick As(ゲインゼロでもブースター的に使える)。Soul Food は粘りが強めでロック寄りの印象です。
Q. KTR を買えばマイク・モレノの音になる?
A. かなり近づきます。あの音の核は KTR の「ちょい歪み+ミドル+軽い圧縮感」です。推定セッティングはゲイン9時・トーン絞り気味。仕上げにはリバーブ(blueSky)とディレイ(El Capistan)、そして本人のタッチが必要ですが、骨格はケンタ系で再現できます。
Q. 「電源オフでバッファーだけ使う」ってどういうこと?
A. ケンタ系は内蔵バッファーが優秀で、繋ぐだけで音にハリが出ます。その効果だけが目的で、エフェクトはオンにせず繋ぎっぱなしにする運用です。教室や練習では面白い実験ですが、そのためだけにボードへ1台足すかは好み次第です。
Q. 本家 Klon Centaur は買うべき?
A. 音だけが目的なら不要です。現在は100万円級のコレクターズアイテムで、KTR や Jan Ray、Sick As で十分にあの方向の音が手に入ります。なかには冒頭写真の Sumo Long Tail(#873)のように、本物と弾き比べて調整された“本家と同じ音”のクローンもあります。本家を6万円で買って10万円で手放した者の、心からの結論です。
関連記事
- ジャズギターで使うエフェクター完全ガイド(ハブ)
- ジャズギタリスト的 RAT のレビュー・使い方・MOD
- Xotic EP Booster レビュー(クリーンブースターの定番)
- Strymonリバーブ徹底比較(モレノのblueSkyの話)
ケンタ系の「軽くだけ歪む」セッティング、体験できます
ゲインを絞って個性だけ足す――言葉では伝わりにくいニュアンスこそ、実機で。大阪・西区(南堀江・桜川/なんばからも近い)の教室で、あなたのギターと一緒に試せます。