耳コピ(トランスクライブ)のゴールは「フレーズを覚えて、そのまま使うこと」ではありません。「リズムとニュアンスを、体に入れること」です。完璧に聞き取れなくても、それでかまいません。やることはこの5つ。
- コピーしたい音源をまずいっぱい聴く。範囲は1〜2小節のワンフレーズに絞る
- 何のコードのときに弾いているかを、メロディとセットで確かめる
- ツールはYouTubeのスロー再生+リピートが現実的(覚えるショートカットは2つだけ)
- 回数で押し切る。何十回・何百回と聴いて、指板で探す
- 取れたら元のテンポに戻して、雰囲気とニュアンスまで合わせる
やらないこと(引き算):
✕ 譜面を先に探さない——自分で音を取る作業そのものが目的で、この過程が最高の練習です。
✕ フレーズを完璧に暗記しようとしない——1年後にはほぼ忘れます。それで正常。
✕ いきなり曲全体・長い範囲をやらない——「ここかっこいい」の1部分だけで十分。
これは特定のステップの人だけの練習ではありません。上達の一番の近道として、どのレベルでも並行して続けるものです。
2回目からは「🎸 今日の練習」へ直行でOK。
なぜ「覚える」より「聴き込む」が先なのか(30秒だけ理屈)
耳コピと聞くと、多くの人は「フレーズを丸ごと覚えて、自分のソロにコピペする作業」だと思っています。でも、覚えたフレーズをそのまま貼り付けても、前後がつながらずすごく無理やり感が出てしまうことが多いのです。しかもそのフレーズは、頑張って覚えても1年後にはたいてい忘れています。
では何のためにコピーするのか。楽譜には書けないもの——リズムの雰囲気、強弱、アーティキュレーション(音のニュアンス)を、体に入れるためです。1つのフレーズを何十回・何百回と聴き込み、コピーする作業を入れるうちに、それが自然と自分の中に入ってきます。だから、完璧に聞き取れなくてもプロセスさえ踏めば得るものはある。順番は「まず聴き込む」が先で、「覚える」は後回しでいいのです。
土台になる基本フレーズは、数はそんなに多くありません。ここは覚えておく必要があります。
実際に弾くフレーズは、その場に応じて作り変えるもの。人の文章をそのまま貼っても、おかしくなります。
※大倉はジャズのフレーズを「言語」に例えます。単語(元フレーズ)は覚え、文章(実際のソロ)はその場で作れるように鍛える——コピーで貯めるのは、この「単語」と「作り変える力」の両方です。
手順:5ステップ(この順番で)
【1】聴き込む&範囲を絞る(1〜2小節から)
最初にやることは、コピーしたい音源をとにかくいっぱい聴くことです。曲全体・長い範囲を一度に取ろうとせず、まずは1部分・ワンフレーズから。「ここのフレーズかっこいいな」と思った、長くても1〜2小節を選びます。その1小節をひたすらリピートして、まず耳で完全に覚え、それを指板の上で探していきます。楽譜を探すより先に、音を間違えてもいいので自分で聞き取ってみる努力が一番大事です。
【2】「何のコードのときか」をセットで取る
ここが後々いちばん効いてくるポイントです。メロディの音だけを追いかけないこと。「今このフレーズは、何のコードのときに弾いているのか」を必ずセットで理解します。バックのコード進行とセットで覚えると、聞き取りの効率も上がり、後で自分のアドリブに使えるようになるからです。コード自体を耳で聞き取れなくても大丈夫。コード進行の分かっているスタンダード曲を題材に選び、進行はコード譜で確かめながら進めれば十分です。単なる音の羅列ではなく、「Dm7のときにこう動いた」という形で記憶に残していきます。
【3】ツールは「YouTubeスロー+リピート」が現実的
「耳コピ」「ハヤエモン」など、速度を落としてそこだけリピートできる専用アプリはとても便利です。ただし弱点があります。Apple Music・Spotifyなどのサブスク音源では使えず、自分でデータを持っている音源にしか対応しません。今どき、わざわざ音源データを買って持っている人はそう多くない——大倉自身、結構めんどくさいと思ってしまうタイプです。
そこで現実的なのがYouTubeです。今はだいたいの曲がYouTubeにあります。スロー再生とリピートを使いましょう。再生速度は100%が一番いいのですが、落とした方が聴きやすくなることもあるので、積極的に使ってかまいません。
【4】覚えるショートカットは、たった2つ
マウスで再生位置を戻していると時間がかかります。YouTubeの操作は、この2つだけキーボードで覚えれば十分です。この2つを組み合わせて、同じ場所を何度も往復しながら音を取っていきます。
【5】回数で押し切る(半分取れなくてOK)
最後は根性論に聞こえるかもしれませんが、ここはもう「回数」と「時間」です。初めて聴く・まったく分からないフレーズだと、1小節取るのに一晩かかることも全然あります。10回ぐらい聴いてやっただけでは、多分できません。プロでも、1小節のフレーズを取るのに一晩中ずっと同じところを聴いて、「これかなと思ったら、いやなんかちょっと違う気がする」と試行錯誤しています。
パッと取れるフレーズは、自分の中で音がはっきり聞こえているか、もともと知っているフレーズです。頭にまったく無い音はなかなか取れません。だからこそ聴き込むわけで、取る速さは気にしなくていい。そして——ここが一番大事ですが——結果的に半分も音が取れなくても、全然かまいません。大事なのは、そのプロセスそのものだからです。
取れたら、元のテンポで「ニュアンス」を合わせる
音が取れたら終わり、ではありません。テンポを落として聴き取るのは大事な作業ですが、最終的には元のテンポに戻して合わせて弾き、その雰囲気とニュアンスまでコピーしないと意味がありません。音符だけでは、耳コピの半分しか使っていないことになります。
ジャズの8分音符は、人によって・曲によって・テンポによって違います。ミュージシャンごとに独特の跳ね方・詰め方があり、これは楽譜には書けません。何回も何回も聴くうちに、その強弱・アクセント・リズムの雰囲気が自分の中に入ってくる——これがコピーの一番のメリットです。フレーズ自体は忘れても、この「雰囲気を真似する力」や「タイム感」は頭の中に残ります。
大倉の断言:一番難しいのはニュアンス。だから一番上達する
楽譜どおりに弾けること自体は、実は簡単。難しいのはその先で、元音源のリズムのニュアンス・音のニュアンス・強弱・音色感を真似することです。素晴らしいミュージシャンは、みんな口を揃えてこう言います。「逆に言うとそれを真似できればめちゃめちゃ上達する」。
── 大倉(大倉ギター教室・講師歴20年)
「コピーしたフレーズが出てこない」——それで正常です
生徒からいちばん多い相談が、これです。「ポジションや度数は見えるようになったのに、コピーしたフレーズが自分のものにならない」。安心してください。大倉はこう答えます——「コピーしたフレーズが出てこないというのはほんまによくある話で、多分みんな同じ悩みを持ってる」。
そもそも、コピーしたフレーズをそのまま使おうとまで頑張らなくていいのです。一時的には使えても、1年後に覚えているかというと、そんなに残っていません。完璧にずっと覚えておくのは無理。それでも、コピーした分は確実に力がついています。だから「馴染ませる」方が大事です。狙って「次このコード進行だからこのフレーズをやろう」と思って出すと、前後がうまくいかず無理やり感が出がち。むしろ、いつの間にか自分のものになって馴染むフレーズが、たまに出てくる——その状態を待つ感覚です。
どうしても特定のフレーズを出したいなら、道は1つ。考えなくても指が動くくらいまで、ひたすら弾き込むことです。今スッと出てくるフレーズは、それだけ弾いてきたから出てくる。定番フレーズを、考えずに弾けるクオリティまで持っていく——出したいフレーズも、それと同じだけ弾かないと出てきません。
🎸 今日の練習(これ1つだけ)
好きな演奏を1つ、YouTubeで開く。その中で「ここかっこいい」と思った1小節だけを選び、スロー+リピート(スペース/← 左カーソル)で音を探します。今日のテーマは「音を全部取ること」ではなく「そのリズムの跳ね方とニュアンスを、口ずさむか演奏で再現できること」です。
音が全部取れなくても、今日はそれで合格です。このページをブックマークして、明日もこの1小節から始めましょう。
大倉の断言:これはもう、断言できる
上手い人ほどコピーはしていて、しかもその数が尋常じゃない——これが共通項です。他の練習をせず、それしかやらない人もよくいる。特に管楽器の人に多い印象です。そして、これは言い切れます。「コピーせずに上手くなった人は、まずいてない」。
── 大倉(大倉ギター教室・講師歴20年)
✅ 続けられていれば合格(速さは競わない)
☐ そのフレーズが何のコードのときか、言える
☐ YouTubeのスロー+リピートと2つのショートカットで、自分で音を探せている
☐ 元のテンポに戻して、跳ね方・雰囲気まで合わせにいっている
☐ 取ったニュアンスが、元の演奏に”似ている”と言えている
合格ライン=ある程度できたら、どんどん新しいフレーズに進んでしまって問題なし。数をこなすこと・たくさんの演奏を聴くことも、同じくらい重要です。
跳ね方とニュアンスが元の演奏に似ているか——チェックの最後の1つは、どこで合格点なのかが自分では分かりにくいところです。レッスンではその1小節を一緒に聴きます。やったことは毎回レッスンカルテに残して、家でも同じ聴き方を続けられるように。
よくある質問(FAQ)
Q. コピーは譜面を見てやってはいけませんか?
A. なるべく見ない方がいい、というのが基本です。コピーで一番大事なのは自分で音を取る作業そのもので、譜面を先に見るとそれが飛んでしまいます。ただし「このフレーズがかっこいい」と音程そのものを写し取りたいときは、譜面を併用してもかまいません。本当に大事なのは、楽譜に書けないリズムやニュアンスを耳で追うことです。
Q. サブスク(Apple Music・Spotify)の曲でも耳コピできますか?
A. 「耳コピ」「ハヤエモン」のような速度を落としてリピートできる専用アプリは、自分でデータを持っている音源にしか使えず、サブスクの曲では使えません。現実的なのはYouTubeで、スロー再生とリピート(スペースキーで再生・停止、左カーソルで少し戻る)を組み合わせる方法です。
Q. 半分も音が取れません。やり方が間違っていますか?
A. 間違っていません。半分も取れなくて全然かまいません。プロでも1小節に一晩かかることがあり、大事なのは何十回何百回と聴き込むプロセスそのものです。その過程でリズムやニュアンスが自然と身につくので、音が全部取れること自体は目的ではありません。
Q. コピーしたフレーズが、アドリブで出てきません。
A. これはよくある悩みで、多くの人が同じところでつまずきます。コピーの目的はフレーズを覚えて使うことではなく、リズムやニュアンスを吸収すること。実際、コピーしたフレーズは1年後には覚えていないことが多いものです——それでも、コピーすると確実に力がつきます。どうしても出したいフレーズは、考えなくても指が動くくらいまで弾き込むこと。そこに判断はいりません。ひたすら回数をこなして、そのフレーズを実践でも使いまくってください。
Q. どのくらいの量をコピーすればいいですか?
A. 上手い人ほどコピーの数が尋常じゃない、というのが共通項です。毎日1曲やるような人もいます。まずは1〜2小節の短いフレーズから、憧れた曲の一部でいいので続けるのが近道です。ただし、取ったニュアンスが元の演奏に近づけているかは、自分の耳だけでは判定が難しいところです。
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