「どんなコードが来ても、指板の上を自由に泳ぎまわりたい」——ジャズギターを続けていると、いつかそう思う瞬間が来ます。その願いをひとつの理論として形にしたのが、パット・マルティーノ(Pat Martino)です。核にあるのは、あまりにも有名な「マイナーコンバージョン理論」。このページでは、その発想の入り口と、私たちが今すぐ真似できるところを整理します。
マイナーコンバージョンとは、ざっくり言えば「どんなコードでも、マイナースケール(主にドリアン)で弾いてしまう」という、指板を思いきり整理する発想です。
難しそうに聞こえますが、入り口はシンプル。やること=まずは耳で1フレーズ真似ること、そして実際に弾けるマイナーリック1のような短いフレーズから体に入れること。やらないこと=いきなり理論の全体像を丸ごと理解しようとすること、そして「太い弦や重いピックを使えばあの音になる」と機材から入ること。順番を間違えなければ、必ず近づけます。
パットマルティーノ(Pat Martino)は1944年生まれ。12歳でギターを始め、早くも15歳でプロとして活動を始めました。その名を不動のものにしたのが「マイナーコンバージョン理論」——簡単に説明すると、どんなコードでもマイナースケール(主にドリアン)で弾いてしまう、という理論です。
パット・マルティーノは2021年11月に惜しまれつつこの世を去りましたが、その革新的な理論と演奏は、今も世界中のギタリストに学ばれ続けています。
マイナーコンバージョンとは
ふつう、ジャズのアドリブは「このコードのときはこのスケール」と、コードごとに考えることが多いものです。マイナーコンバージョンは、その考え方を大胆に整理します。ひとことで言えば、目の前のコードを“ある1つのマイナー(主にドリアン)”に置き換えて弾いてしまうという発想です。使うスケールが1種類に寄っていくぶん、指板の見え方がぐっとシンプルになり、ポジションを縦横無尽に動けるようになります。マルティーノの、あの止まらないラインの背景にはこの整理術があります。
ここで出てくる「ドリアン」は、身構える必要はありません。教室では、ドリアン=メジャースケールの3度と7度が半音下がったもの、というふうに「メジャースケールから見てどう変わったか」で覚えてもらっています。ゼロから新しい音の並びを暗記するのではなく、知っているメジャースケールの“変化形”として捉えると、ぐっと身近になります。
では、具体的に「どのコードを、どのマイナーに置き換えるのか」。ここが理論の心臓部ですが、コードの種類ごとに置き換え方のコツがあり、言葉だけで丸ごと飲み込むのは正直むずかしいところです。実際の音とポジションで一緒に確認するのが一番の近道なので、教室のレッスンで手を動かしながらお伝えしています。まずは、下の「この人から学ぶこと」の順番で、耳と手から入っていきましょう。
入り口のイメージを1つだけ挙げると——Cmaj7のときにマイナーコンバージョン経由のラインを弾くと、リディアンっぽい響きになる、というのが一般によく言われる例です。(※この一文は2026-07-16の取材方針「一般的に言われている範囲のみ可」に基づく追加=大倉チェック待ち)
※マイナーコンバージョンの具体的な弾き方は、レッスンで音とポジションを見ながら解説します。教室では今日から学べます → 体験レッスン
パットマルティーノのスタイル
マイナーコンバージョン理論によって弾きやすく整理された指板の上を、縦横無尽に弾きまくる——それがマルティーノのスタイルです。よどみなく続くシングルラインの流れは、多くのギタリストがコピーに挑んできました。
機材の面では、16〜58という非常に太いゲージの弦を張っていたと言われています。ピックも非常に分厚く固いものを使い、石(ストーン)のピックを使用していた時期もあったとされます。太く芯のある音の一因ではありますが、真似の焦点はそこではありません(次の一言を参照)。
「結局は弾き方っていう、もう腕が全て。よく言うのはやっぱ機材はあまり重要じゃない、腕が8割ぐらい。もちろん機材も重要なんですけど、そこまでの比率はなくって、自己満足であったり、自分自身が気持ちよく弾くため、っていう感じ。」
── 大倉(大倉ギター教室・講師歴20年)
この人から学ぶこと・練習すること
① マイナーコンバージョンは「発想」から借りる
理論の全体像は後まわしでかまいません。まずは「マイナー(ドリアン)で歌えるフレーズ」を1つ、確実に手に入れるところから。実際に弾けるマイナーのフレーズは マイナーリック1 で譜面つきに用意しています。ここで“マイナー1発で歌う感覚”をつかんでおくと、マルティーノの整理術が「なるほど、こういうことか」と腑に落ちやすくなります。
② 太い音は、機材より右手のタッチから
上の断言のとおり、あの太く芯のある音の正体は弾き方(タッチ)にあります。太い弦や重いピックは“結果”であって“原因”ではありません。真似したい音があるときは、まず右手のピッキングの当て方・強さ・角度を見直すのが先。機材から入ると遠回りになりがちです。
③ まずは耳で。必聴の演奏をコピーする
理論の理解より、耳で追えることが先です。下の参考動画を、譜面に起こす前に何度も聴いて、フレーズの雰囲気ごと真似てみましょう。こうして良い演奏を自分の耳と手に写しとる作業(耳コピ=耳コピの運用|何を・どうコピーするか)が、遠回りに見えていちばん力になります。
練習の手順:
- 下の参考動画(John Scofield共演/2014年ライブ)を、まずは何度も聴く。気に入った短いフレーズを1つだけ選ぶ。
- そのフレーズを、譜面に頼らず耳で真似て弾いてみる。リズムの細かいところまでそっくりに。
- 弾きやすいキーのマイナーリック1で、“マイナー1発で歌う”感覚を並行して仕込む。
- 感覚がついてきたら、マイナーコンバージョンの本格的な組み立てはレッスンで一緒に。ここは音とポジションを見ながらが最短です。
パットマルティーノの名盤
数えきれないほどのレコーディングを残していますが、入り口としてまず挙げたいのが「Exit」。このアルバムに入っているスタンダード曲「酒とバラの日々(Days of Wine and Roses)」で、マイナーコンバージョンの手ざわりを知った方も多いはずです。
この盤の聴きどころは、ジャズギター初心者の為のジャズ必聴アルバム[パットマルティーノ EXIT] で詳しく解説しています。
パットマルティーノの参考動画
ギタリスト John Scofield との共演。この動画を初めて見た時は感動して必死でコピーしました。必聴です。
2014年のライブ映像です。晩年の演奏を高画質で観られる貴重な映像で、指板を自在に動くラインをじっくり追えます。
次に読む・あわせて弾く
- 🎸 マイナーリック1(マイナーで歌う感覚を、譜面つきの実フレーズで)
- 💿 ジャズギター初心者の為のジャズ必聴アルバム[パットマルティーノ EXIT](マイナーコンバージョンを聴くならまずこの1枚)
マイナーコンバージョンを、音とポジションで一緒に
「どのコードを、どのマイナーに置き換えるのか」は、言葉だけだと迷子になりがちなところ。実際に弾いてもらいながら、あなたの手に合う入り口を一緒に確認します。手ぶらでOK。楽器はこちらで用意します。
体験レッスンを申し込む →大阪市西区南堀江/桜川駅・西大橋駅から徒歩5分(四ツ橋・JR難波も10分圏)