練習はしている。なのに、ここ最近まったく上手くなっている気がしない——弾くものが変わり映えせず、録音を聴いても先月と同じに聞こえる。「これ以上は無理なんじゃないか」「歳のせいか」と、ふと手が止まる。ジャズギターを続けていれば、この上達しない時期(スランプ)は誰にでも必ず来ます。そして先に言っておくと、それは才能の限界ではありません。付き合い方を知っているかどうかの問題です。
上達しない時期は、誰にでも来ます。才能の限界ではなく、乗り越え方を知らないだけです。
停滞したときに一番やってはいけないのが、「うまくなろう、うまくなろう」と思い詰めて練習を積み増すことです。これは、しんどいだけです——まずこれを捨ててください。期待しすぎずに、楽しんで弾きながら練習を繰り返す。どうしても苦痛なメニューはいったん外す。音楽とは付かず離れずの距離を保つ。この3つで、停滞期の大半は静かに通り抜けられます。
上達しない時期の「あるある」は、だいたいこの4つ
たいてい複数当てはまります。そして「いま止まっている本当の原因が、練習の”量”なのか”中身”なのか」——これは自分では切り分けにくい。それがこの記事の最後の話です。
あるある1|同じところをぐるぐる回って、飽きてくる
こんな状態:練習はしている。でも弾くものが毎回同じで、上達の実感がない。新しいフレーズを入れても結局いつものパターンに戻ってしまう。だんだんギターを手に取る回数が減り、「飽きてきたな」と感じ始める。
なぜ起きる:これは多くの場合、練習量そのものの問題です。あまり練習しない人はなかなか上手くなれず、ずっと同じところをぐるぐる回ってしまって、飽きて嫌になる。厳しく聞こえますが、逆に言えば「才能が尽きた」わけではなく、まだ抜けるだけの回数を重ねていないだけ、ということでもあります。
回避策
ここで「もっと気合を入れて練習量を増やす」に振り切ると、次のあるある2(苦痛化)にはまります。おすすめは、いまやっている練習を、少しでも「弾いていて楽しい」形に寄せること。アドリブが少しでも弾けてくると楽しくなってモチベーションは上がりやすいので、機械的な反復ばかりでなく、実際に曲やアドリブの中で使う時間を混ぜる。ぐるぐる感が強いなら、練習がつまらない・退屈 の切り替え方も参考にしてください。
あるある2|つまらない基礎練が、苦痛でしかなくなる
こんな状態:スケールやクロマチックなどの基礎練が、とにかくつまらない。「やった方がいいのは分かっている」けれど、義務でこなしているだけで、ギターの前に座るのが憂うつになってくる。
なぜ起きる:基礎練・スケール練習を「つまらない」と感じる人は、そもそも多い。そこを我慢で押し切ろうとすると、練習全体が「嫌々やるもの」になって、ギターから気持ちが離れていきます。停滞期には、この悪循環が特に効いてしまいます。
回避策
考え方はシンプルです。基礎練はやっておいた方がいい。ただし、どうしても苦痛で仕方ないのであれば、やらない方がマシ。嫌々するような練習はやめた方がいい、というのが本音です。一方で、やっているうちにだんだん楽しくなってくるパターンもあるので、まず1回はやってみること。理想は、楽しんで弾いていたら「練習している」という感覚すらなく、好きなことを好きなようにやっていたら結果的に練習になっていた——という状態です。
「上手くならない時期は、あまり期待せずに練習を繰り返すのがいい。『うまくなろう、うまくなろう』とずっと思い詰めて弾き続けても、しんどいだけです。楽しんで弾きながらで、いいんです。」
── 大倉(大倉ギター教室・講師歴20年)
あるある3|理想ばかり先に上がって、自分の演奏が嫌になる
こんな状態:いい演奏をたくさん聴くほど、「こう弾きたい」という理想は上がっていく。なのに自分の手はそこに追いつかない。その差ばかりが目について、「全然できていない」「自分はダメだ」と、弾くたびに落ち込む。
なぜ起きる:これは停滞というより、耳(理想)が先に伸びて、手が後から追うという順番の話です。大倉自身、毎日練習していると「これだ」と思った理想がまたすぐ離れていき、理想がどんどん入れ替わっていきます。どんなギタリストもその繰り返しで、理想を求めて日々練習している。つまり「理想と現実の差」を感じること自体は、止まっている証拠ではなく、伸びている最中のサインでもあります。
回避策
大切なのは自分の演奏を認めてあげることです。「自分は全然できていないからダメだ」と思っていると、余計にダメになっていく。緊張対策と同じで、いまできることを一度ちゃんと肯定してから積み上げる方が、結果的に前へ進めます。そして比較は理想を上げすぎる燃料になりがちなので、人と比べて落ち込む の考え方もあわせてどうぞ。
「基礎練はやっておいた方がいい。ただ、どうしても苦痛で仕方ないなら、やらない方がマシです。嫌々するような練習は、やめた方がいい。」
── 大倉(大倉ギター教室・講師歴20年)
あるある4|毎日弾かなきゃという義務感で、逆に離れてしまう
こんな状態:「毎日練習しないと下手になる」という気持ちがある。でも仕事が忙しかったり気分が乗らなかったりで弾けない日が続くと、罪悪感がたまる。そのうち「もういいか」とギターケースを開けなくなる——スランプが、そのまま離脱に化けてしまう。
なぜ起きる:毎日練習しなければならないという強迫観念は、ない方がいい。音楽とはある一定の距離感を保って付き合うのが大事で、その距離感は時期によって変わってくる。強迫観念で自分を追い込むと、ジャズそのものを嫌いになりかねない。停滞期に一番避けたいのは、そこです。
回避策
付かず離れずでいい。無理せず続けていくのが結局は一番です。よくあるのは、仕事が忙しい時期はいったん離れて、時間や心に余裕ができたときにまた戻ってくるパターン。これが一番豊かになる付き合い方です。もちろん逆に、ある時期は強制的にでも練習した方が伸びることもあります。要は「一生好きでいられること」が第一で、そのために距離を調整するということ。嫌になったら一度離れる勇気も、続けるための技術です。
スランプは独学で抜けられる?——正直に線を引きます
教室のサイトだからといって、「一人では無理」と脅すつもりはありません。正直に書きます。停滞期の”付き合い方”(メンタル面)は、独学でも十分やれます。この記事の回避策も、ほとんどは一人で実行できるものです。ただし、停滞の”原因の切り分け”だけは、構造的に一人では難しい——それが下の表の「一人では切り分けられないこと」です。
○ 独学・自分でここまでできる
- 思い詰めるのをやめ、期待しすぎずに練習を繰り返す
- 苦痛なメニューをいったん外し、楽しめる形に寄せる
- 音楽と付かず離れずの距離を保つ(忙しい時期は離れる)
- いまできることを認めてあげる(理想と比べすぎない)
● 一人では切り分けられないこと
- 停滞の原因が「量」か「中身」かの切り分け(ここが核です)
- いまの練習が効いているかどうかの判断
- 苦痛な基礎練を外していいか/残すべきかの見極め
- いまの自分の現在地(理想との差に隠れて見えない)
- いまが「休む時期」か「積む時期」かの判断
「一人では切り分けられないこと」は「頑張れば独学でもできる」項目ではなく、構造的に自分では判定できない項目です。停滞しているときほど視野が狭くなり、量の問題を中身の問題と取り違えたり、その逆をやったりして、遠回りが長引きます。
20年教えてきて一番もどかしいのは、足りないのは量なのか中身なのかが本人にだけ見えないまま、同じ場所を回り続けている方に出会うときです。だからレッスンでは、まず音を聴かせてもらい、どちらなのかを切り分け、次に積むものを一緒に決めます。
よくある質問
Q. 練習しても上達しない時期は、どうすればいいですか?
A. 上手くならない時期は誰にでもあります。そういう時期はあまり期待せずに、練習を繰り返すのがいい。「うまくなろう」と思い詰めて練習し続けるとしんどいだけなので、楽しんで弾きながら続けるのがコツです。
Q. 上達しないのは、才能や年齢の限界ですか?
A. たいていは違います。停滞は誰にでも来るもので、多くの場合は練習量が足りずに同じところをぐるぐる回っているか、練習の中身がズレているかのどちらかです。ただし「量の問題」か「中身の問題」かは自分では切り分けにくく、そこを取り違えると停滞が長引きます。
Q. つまらない基礎練は、やめてもいいですか?
A. 基礎練はやっておいた方がいいですが、どうしても苦痛で仕方ないなら、やらない方がマシです。嫌々やる練習はギターそのものを嫌いにしかねません。ただ、やっているうちに楽しくなるパターンもあるので、まず1回やってみてから判断してください。
Q. 毎日練習しないと下手になりますか?
A. 毎日練習しなければならないという強迫観念は、ない方がいいです。音楽とは付かず離れずの距離感で付き合うのが長続きのコツで、忙しい時期は離れて、余裕ができたらまた戻ってくる——これが結局いちばん豊かになります。一生好きでいられることが第一です。