「ジャズのピックって、結局どれを使えばいいですか?」――大阪・南堀江(桜川駅すぐ)の教室で、一番よく聞かれる質問のひとつです。結論から書きます。ジャズ用の最初の1枚なら、まず D’Andrea Pro Plec 1.5mm。引っかかりが気になる人は Jim Dunlop Jazz III(赤)。この2択で、9割は片付きます。
ただし――ピックを変えても「音が細い」「ピッキングが暴れる」が直らないことは珍しくありません。原因の半分は弾き方にあるからです。この記事では、ジャズに合うピックを悩み別に整理しつつ、ピックを変える前に直すべき弾き方の落とし穴までまとめます。教室には販売中のピックがほぼ揃っていて、これまで500種類ほど試してきた現場知ベースの内容です。
30秒の結論
- 迷ったら D’Andrea Pro Plec 1.5mm。極端に音が太く、それだけでジャズトーンになる。ジャズギタリストの使用率No.1メーカー。
- 引っかかる・速いフレーズを整えたいなら Jim Dunlop Jazz III(赤)。小型で細かいプレイ向き。
- 太い1色から幅を出したくなったら Tortex 0.88mm(緑)。ポリアセタールで音が丸い(ジュリアン・ラージ/ビル・フリゼールも使用)。
- 高級ピック(BlueChip・約8,000円/枚)は「必須」ではなく満足感のための選択肢。差は値段ほどない、が本音。
- そして大前提――音が細い・暴れるの半分は弾き方。ピックを買い足す前に握りの強さと角度を見直す。
| あなたの悩み | まず試すピック | 厚さ | 価格帯 |
|---|---|---|---|
| 音が細い・ジャズトーンが出ない | D’Andrea Pro Plec | 1.5mm | 数百円 |
| 引っかかる・速いフレーズが弾けない | Jim Dunlop Jazz III(赤) | 1.38mm 小型 | 数百円 |
| 太い1色から脱したい・幅が欲しい | Tortex 0.88mm(緑) | 0.88mm | 数百円 |
| コンピングを軽やかにしたい | Dunlop 赤 0.5mm/指弾き併用 | 0.5mm | 数百円 |
| 質感・満足感に投資したい | BlueChip ほか高級ピック | 各種 | 約8,000円/枚 |
※価格は2026年6月の市場価格の目安。厚さの数値はメーカー表記準拠。
「迷ったら Pro Plec」をすすめる理由はシンプルです。
- 教室で試した生徒の反応がいちばん強い(「えっ、これだけで?」となる)。
- 極端に音が太く、それ1枚でジャズトーンが出る。
- ジャズギタリストの使用率No.1はおそらくダンドレア。最初の1枚として外す理由がない。
「音が細い」と感じるあなたへ
音が細い原因として、ピックの選択は確かに大きいです。けれど現場で生徒さんを見ていると、原因のもう半分は弾き方にあります。両方を同時に直すのが、いちばんの近道です。
ピック側の打ち手:D’Andrea Pro Plec 1.5mm
音が細いと相談されたら、まず D’Andrea の Pro Plec シリーズを勧めることがほとんどです。極端に音が太く、それだけでジャズトーンが出るピックで、教室で試した生徒の反応がいちばん強い。「えっ、これだけで?」となって、しばらくのめり込む人が多いピックです。
→ 詳細は D’Andreaのピックを5種類試したレビュー をご覧ください。
弾き方側の打ち手:チェックすべき5つ
「太い音を出す弾き方」には、ピック以外にも見直しどころがあります。生徒さんはピックと弾き方の両方に問題を抱えていることがほとんどです。
- 逆アングルで弾けているか(必須ではないが、試す価値はあり。太くふくよかな音になりやすい)
- ピッキングのスピード(基本的には、ある程度速い方がいい)
- ピックを持つ強さ(強すぎると、かえって音が痩せる)
- ピッキング位置(フロントPU寄りで弾くと音は甘く・太くなる。後ろほど硬い)
- ピックの角度(付けすぎはノイズと痩せの両方を招く)
ピックだけ変えて解決した気になっていると、半分しか直っていません。逆に、弾き方が整っている人ほど「どのピックでも鳴らせる」状態に近づきます。
「ピッキングが暴れる・ノイズが出る」あなたへ
これは、まず単純に力の入れすぎです。ピックを握る力が強い方が多く、アタックを強く出そうとして、結果的に音が暴れて、逆に細くなる傾向があります。
もうひとつの原因がピックの角度の付けすぎ。4・5・6弦のワウンド弦に対して擦るような角度で弾くと、ピックスクラッチに近いノイズが出ます。ロックではこれを音の武器として使いますが、ジャズではノイズは邪魔な音色になります。基本は「ピックを擦るように弾かない」。これだけで、ノイズの相談はかなり減ります。
推奨ピック:Jim Dunlop Jazz III(赤)
引っかかりにくく、細かいプレイがすっと整います。ピックが引っかかってしまうタイプの方には、教室でもよく勧める定番です。これで弾きにくいということは、まずありません。小型なので「Pro Plec は太いけど大きくて扱いづらい」という人の受け皿にもなります。
「太い1色から脱したい・コントロール幅が欲しい」あなたへ
分厚いピックは、太くて気持ちいい音が出ます。ジャズらしい音もする。けれどその音しか出ないのがデメリットです。コントロールが難しく、太い音1色になりがちで、速く弾く場面では弾きにくくなります。
推奨ピック:Jim Dunlop Tortex 0.88mm(緑・亀のマーク)
素材はポリアセタール。少し柔らかめのプラスチックで、いい感じに音が丸くなります。弾き方によって音色をコントロールしやすいのが強み。ジュリアン・ラージやビル・フリゼールも使用しています。ラージは長く BlueChip 1.3mm でしたが、ここ数年は Tortex 0.88mm に変えていて、アコギでもどのギターでもこれが多いそうです。
大倉自身の最近:年々「薄め」に
一時期は2〜3mmの極厚もよく使っていましたが、トーンの幅が狭くなる印象が強くなり、年々薄めに寄っています。今は Fender ティアドロップのミディアム/ヘビーの肩・横、もしくは Fender ティアドロップの小さいヘビーを使うことが多い。逆アングルにも取り組んでいて、1mm前後の普通のティアドロップを使う頻度が増えました。「太さ=厚さ」と思い込まないことが、抜け出す第一歩です。
「コンピングを軽やかにしたい」あなたへ
コードを弾くときは、あえて薄いピックを使うプロがいます。ジム・ホール的な丸いコンピングを作るとき、薄ピックは強力です。さらにコンピングでは指弾きを併用するプレイヤーも多いので、「ピックだけで考えない」のがコツです。
ジム・ホール(Jim Hall)の使い分け
ハード/ミディアム/シン(厚い・普通・薄い)の3種類を場面で使い分けていた、という話です。単音でソロを弾くときは分厚いピックで丸いトーンを出し、伴奏では薄いものに持ち替える。同じ人が厚さを使い分ける、というのは選び方の幅を広げてくれます。
ジョナサン・クライスバーグの使い分け
普段のプレイでは D’Andrea Pro Plec を半分に切ったような形を使います。一方、コードを弾く伴奏のときは Jim Dunlop の赤、おそらく0.5mm のペラペラのピック。同じプレイヤーがここまで違う厚さを行き来する――知っておくと、自分の選択肢も一気に広がります。
コンピングは指弾きとの併用も自然です。ピック1本で抱え込まず、場面で持ち替える発想を持っておくと、ぐっと楽になります。
「丸い太いトーンが欲しい」(フラット弦・箱モノ)
よく聞かれますが、箱物・フラットワウンド弦だから特別なピックがある、ということはあまりありません。考え方は基本同じです。むしろ効くのは、ピックの肩・横で当てるテクニックです。
ラゲ・ルンドやパット・メセニーは、ティアドロップの先端ではなく横の肩・上の部分でピッキングします。先端の反対側を使うと当たる面積を広く取れる。面積が広いほど音色は太くなる傾向があります。これは指で弾くときも同じ理屈で、指の腹で広く触るほど太くなります。新しいピックを買う前に、まず「当てる場所」を変えてみてください。
フラット弦の選び方そのものは ジャズでよく使われるフラット弦 も参考にどうぞ。
素材で選ぶ:カゼイン・アクリル・セルロース・木・べっ甲
「定番3枚は分かった。その先は?」という方へ。ピックは素材で音もキャラクターも変わります。一般の楽器店にはあまり並ばないものも多いので、傾向を知っておくと選びやすくなります。
| カゼイン系 (牛乳プロテイン) | べっ甲に近い音。Red Bear(日本に入りにくく米サイト直販が多い)、D’Addario の高級品もカゼイン。一般店ではほぼ見かけない。 |
| アクリル系 | とてもよく滑る=速い・細かいフレーズ向き。分厚くても弾きにくくならず、安定した音色。代表は Gravity/V-Picks。大倉の常用は Gravity Classic Pick Mini 1.5mm(薄め好み)。 |
| セルロース | 品質が安定していて扱いやすい。Pick Boy のティアドロップを大倉も日常的に使用。クセが少なく外しにくい。 |
| 木製 | いい個体もあるが品質が安定しない(個体差が大きい)。弦離れ・滑りが今ひとつで、やや弾きにくい印象。 |
| べっ甲 | 音は良いが分厚くなるほど高価。希少素材。満足感はあるが「これでないとダメ」になりやすい点は高級ピック全般の注意点と同じ。 |
どれも教室に現物があります。素材の違いは言葉より一度弾いた方が早いので、気になる系統があれば声をかけてください。
高級ピックは値段の価値があるか — BlueChipの本音
「BlueChip ってどうなんですか?」も定番の質問です。大倉の正直な答えは「価値はある。ただし必須ではない」。一つの選択肢としては十分アリ、というのが本音です。
他のピックと比べて、値段ほどの差はありません。特別めちゃくちゃいい音がするわけでもない。ただ、間違いなくいいピックではあるので、弾いていて満足感はある――そこは認めます。大倉自身も BlueChip 以外に Wegen、Red Bear、べっ甲など3,000〜4,000円超のピックを散々試してきました。
正直に言えば、大倉自身の今のメインも BlueChip です(Jazz III タイプの LG50=1.25mm)。本人がメインで使ってなお「必須ではない」と言う――その距離感こそ、高級ピックとの正しい付き合い方だと思います。型番の読み方や厚さの選び方は、単独レビューで詳しく解説しています。
買って後悔したポイント
- 1枚8,000円前後と高すぎる
- 気楽に持ち出しにくい。落とすと探すのが地獄(実際に何度も落として苦労し、買い直した)
- 代わりが効かない。「これでしか弾けない」状態はライブで脆い
→ 実機の詳細は BlueChip Pick 値段も音色も最強のピック をご覧ください。教室には在庫がいくつかあるので、いきなり買う前に試してみるのが安全です。
ジャズプロが実際に使っているピック
参考までに、現代ジャズで聴かれるギタリストたちの使用ピックです。傾向は「分厚め・小さめ」が多いものの、最近は薄めに寄る流れもあります。
| カート・ローゼンウィンケル | Westville 1.5mm ティアドロップ(日本のショップ) |
| ラゲ・ルンド | Westville 1.2mm/Fender エクストラヘビー(肩で弾く) |
| ギラッド・ヘクセルマン | 以前 Sharktooth 1.5mm → 最近は Plex(イタリア製ウルテム素材のJazz IIIタイプ) |
| ジュリアン・ラージ | 以前 BlueChip 1.3mm → 現在 Tortex 0.88mm(緑) |
| ジョナサン・クライスバーグ | D’Andrea 1.5mm(現在は自身のオリジナルモデル) |
| パット・メセニー | Fender Thin(一番薄い)、肩で弾く逆アングル |
| セシル・アレクサンダー | Jim Dunlop ナイロン 0.73mm(逆アングル=薄い傾向) |
ヘクセルマンが最近使う Plex(プレックス) は、日本ではあまり知られていないイタリアのメーカー。ウルテム素材で Jazz III タイプの形をしています。詳しくは イタリアのハンドメイドピックPlecksレビュー をご覧ください。
セシル・アレクサンダーやメセニーは逆アングルピッキングのプレイヤーで、逆アングルをやる人はピックが薄めの傾向にあります。TUSQ(ナットに使う素材)で作った薄めのピックが好まれる流れも。逆アングルそのものはすぐ身につくものではありませんが、自分のプレイの方向性として一度試す価値はあります。
ピックを変える前に直すこと
「ピックを変えれば音が変わる」は半分本当で、半分は嘘です。太い音が欲しいなら、ピックを買い足す前に「弦の振動方向」と「ピッキングの強さ」を必ず見直してください。順番を間違えると、何枚買っても満足しない無限ループに入ります。
「もうこのピックでは限界、削ってでも変えたい」という方は ダンドレアのピックを削ってみた変化 も参考になります。先端の形を変えるだけでもキャラクターは変わります。
ピックの基礎(材質・形状の総論)から知りたい方は ギターピックの種類と特徴(初心者向け基礎) をどうぞ。本記事はジャズに特化した内容に絞っています。
大倉自身のピック失敗談
正直に書くと、今でもピックは悩み続けていて、「これがいい」と言い切れないのが本音です。教室の壁にはピックが大量にぶら下がっています。
昔はライブで分厚いピックを使って力んでしまい、すごくペケペケな音になったことがよくありました。「太い音を出したい」と思って厚くするほど、握りに力が入って音は逆に痩せる。これがいちばんよくあるパターンです。
その反動で、力み対策に薄いピックを無理やり使った時期もあるのですが、薄すぎて弾けず、ライブがボロボロになったこともあります。今はライブでの力みが取れてきて、どんなピックでも基本的に使えるようになりました。逆に言えば、「このピックでしか弾けない」状態は、本番では弱いのです。
この記事を読んでいる方には、ぜひ「複数のピックを行き来できる手」を目指してほしいと思います。ピック選びは、その手づくりの過程でもあります。
よくある質問(FAQ)
Q. ジャズで最初に買うべきピックは?
A. D’Andrea Pro Plec 1.5mm。引っかかりが気になる方は Jim Dunlop Jazz III(赤)。この2択でほぼ片付きます。
Q. 高級ピック(BlueChipなど)は値段の価値がありますか?
A. 価値はありますが、必須ではありません。他のピックと比べて値段ほどの差はない、というのが正直な答えです。落とすと探すのが大変、代わりが効かないという欠点もあるので、「満足感のための投資」と割り切れる方向きです。
Q. ピッキングノイズが気になります。ピックを変えれば直りますか?
A. ピックを変える前に、角度の付けすぎと握りの強さを見直してください。ジャズでは「ピックを擦るように弾かない」が基本です。
Q. コンピングで薄いピックを使うのはアリですか?
A. アリです。ジム・ホールやジョナサン・クライスバーグのように、伴奏で 0.5mm 前後の薄いピックを使うプロもいます。指弾きとの併用も自然です。
Q. 箱物(フルアコ)やフラット弦だと、専用のピックが必要ですか?
A. 特別なピックが必要、ということはあまりありません。考え方は同じです。それよりピックの肩・横で当てて面積を広く取る方が、太く丸いトーンに効きます。
Q. ピックを変えれば音は太くなりますか?
A. 半分本当で、半分は嘘です。残り半分は弦の振動方向とピッキングの強さ。先にここを見直さないと、ピックを買い足しても満足できません。
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