ジョビンの名曲から学ぶボサノバギター|聴いておきたいアルバム5選

ボサノバを語るうえで絶対に外せない作曲家、アントニオ・カルロス・ジョビン。愛称「トム・ジョビン」の名で世界中に愛されるこの人物の曲を聴き込むことが、ボサノバギター上達への最短ルートです。

今回は、播磨先生が「自分はボサノバが好きなんじゃなくて、ジョビンが好きだった」と語るほどの愛情を注ぐ名曲と、大倉自身が「ボサノバアルバムとしてはナンバーワン」と断言するアルバムを、2人のギタリストの視点でご紹介します。

執筆:大倉甲(大倉ギター教室代表・ジャズギター講師歴20年)/監修:播磨正明(ボサノバ専任講師・ギター歴40年超)

目次

トム・ジョビンとは|ボサノバを世界に広げた作曲家

大倉大倉 💬
今回はジョビンの名曲とアルバムを深掘りしたいのですが、まず「トム・ジョビン」と「アントニオ・カルロス・ジョビン」は同じ人ですよね?
播磨先生播磨先生 🎸
同じ人です。本名はアントニオ・カルロス・ブラジレイロ・ジ・アルメイダ・ジョビン。「トム」は、4歳年下の妹エレーナが幼い頃に「アントニオ」と発音できず「トントン(Tom Tom)」と呼んだことに由来する愛称です。ブラジルでは「トム」の方が一般的ですね。
大倉大倉 💬
エリス・レジーナとの名盤が『Elis & Tom』というタイトルなのも、この愛称だからなんですね。
播磨先生播磨先生 🎸
そうです。ボサノバの誕生にはジョアン・ジルベルトの功績が大きいですが、ジョアンが生み出したリズム革命を受けて数々の名曲を作曲したのがジョビンです。ジョアンがジョビンに新しいスタイルの演奏を聴かせ、ジョビンが作曲し、世界的な大ヒットにつながった。ボサノバは2人の天才の出会いから生まれました。
ジョビンの音楽が特別な理由

美しいメロディ — 一度聴いたら忘れられない旋律の数々
独特なコード進行 — ジョビンの曲はコード進行自体が特殊で、他の作曲家とは一線を画す
半音の動き — 内声をクロマチックに動かすボイシングがジョビンのハーモニーの核心

ボサノバギターを本格的に学びたい方には、ジョビンの曲を中心としたレッスンがおすすめです。


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ギタリストが聴くべきジョビンの名曲5選+α

大倉大倉 💬
ジョビンの曲はたくさんありますが、ギタリストがまず聴くべき曲を選ぶとしたら?
播磨先生播磨先生 🎸
まずはこの5曲ですね。どれもセッションでよく演奏される定番曲で、それぞれに違った魅力があります。

① イパネマの娘(Garota de Ipanema)

イパネマの娘Key = F

ボサノバで最も有名な曲。1625(3625)進行やA列車で行こう的な進行も含まれ、コード進行の勉強にも最適です。サビのセクションはやや複雑ですが、まず全体を聴いて雰囲気をつかむところから始めましょう。セッションでは必ずと言っていいほど演奏される、ボサノバの代名詞です。

② Wave(ウェーブ)

WaveKey = D

ジョビンの美しいメロディが際立つ名曲。実は同じコード進行で「Tide(タイド)」という別の曲があり、全く同じコード進行なのにメロディが全然違うという、ジョビンの作曲力を象徴するエピソードがあります。セッションでもイパネマに次いで人気の高い定番曲です。

③ コルコバード(Corcovado / Quiet Nights of Quiet Stars)

コルコバードKey = Am

穏やかなテンポとシンプルな構成で、初心者が最初に取り組みやすい曲のひとつ。静かな夜を思わせるメロディが美しく、ボサノバの「空気感」を体感できます。コード数も比較的少ないので、練習曲としてもおすすめです。

④ ジンジ(Dindi)

ジンジ(Dindi)

コード進行が非常に美しい曲です。特徴は全音下がるメジャーコードの動き。この独特の響きがジョビンらしい浮遊感と切なさを生み出しています。メロディも歌心にあふれていて、ボサノバの美しさを堪能できる1曲です。

⑤ トリステ / 悲しみ(Triste)

トリステ(Triste)

こちらもコード進行が非常に美しい名曲です。リディアン系のサウンドが生み出す独特の輝きが魅力で、明るさと切なさが同居する不思議な響きがあります。ジョビンのハーモニーセンスが凝縮された曲として、ぜひ聴き込んでほしい1曲です。

播磨先生播磨先生 🎸
まずはこの5曲を繰り返し聴いてみてください。ジョビンの音楽の幅広さが感じられるはずです。

その他の人気名曲

大倉大倉 💬
5曲以外にも聴いておくべき曲はありますか?
播磨先生播磨先生 🎸
もちろんたくさんあります。特にこの辺りは外せない名曲ばかりです。
曲名 聴きどころ
ワンノートサンバ(One Note Samba) シンプルに見えて実は深い曲。ディミニッシュの隠れた使い方がある
想いあふれて(Chega de Saudade / No More Blues) ボサノバ最初期の名曲。ジョアンが歌った記念碑的作品
ディサフィナード(Desafinado) 「音痴」という意味のユーモラスなタイトル。洒落たコード進行が魅力
イヌチル(Inútil Paisagem) メロディが半音でずっと上がっていく、ジョビンの半音の魔法を体感できるマニア向けの名曲

ボサノバの定番コード進行について詳しくはこちらで解説しています。


ボサノバの定番コード進行パターン5選|曲作り・アレンジにも使える

ジョビンを堪能するおすすめアルバム5選

大倉大倉 💬
ここからはジョビンの音楽を堪能できるアルバムを紹介していきます。まずは僕から1枚推薦させてください。

① Elis & Tom(エリス&トム)— 大倉の「ナンバーワン」

大倉大倉 💬
個人的には、ボサノバアルバムとしてはこれがナンバーワンです。エリス・レジーナとトム・ジョビンの共演盤。ブラジル最高の歌姫と作曲家本人が一緒に作った、これ以上ない贅沢な組み合わせです。
播磨先生播磨先生 🎸
エリスの圧倒的な歌唱力と、ジョビン本人のピアノ・歌が溶け合っている。ジョビンの曲がどう歌われるべきかを、作曲者自身が示している名盤ですね。タイトルの「Tom」はジョビンの愛称がそのまま使われています。

② Getz/Gilberto(ゲッツ/ジルベルト)— 歴史的名盤

大倉大倉 💬
もう1枚、ジャズプレイヤーの視点からおすすめしたいのがこれです。スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルト、そしてジョビンが共演した歴史的名盤
Getz/Gilberto が歴史的名盤と呼ばれる理由

奇跡のセッション(1963年) — アメリカのトップジャズ奏者と、ブラジルの天才クリエイターたちがNYのスタジオに集結
アストラッドの偶然の参加 — 通訳として同行していたジョアンの妻が急遽英語パートを歌唱。プロ歌手ではなかったが、その素朴でアンニュイな歌声がゲッツのサックスと奇跡的な化学反応を起こした
グラミー最優秀アルバム賞(1965年) — ビートルズを抑えて受賞。ジャズ系アルバムとして史上初の快挙
ボサノバの世界化 — この1枚がボサノバをブラジルのいちジャンルから世界のスタンダード音楽へと押し上げた

③ Wave(ウェーブ)1967年 — オガーマンとの至高のコラボ

播磨先生播磨先生 🎸
ジョビン本人のアルバムなら、まず『Wave』を聴いてください。アレンジャーのクラウス・オガーマンによるオーケストラアレンジが素晴らしい。ジョビンのメロディとハーモニーが、オーケストラの響きと完璧に溶け合っています。

④ Tide(タイド)— Waveと対になるもうひとつの名盤

播磨先生播磨先生 🎸
Waveと同じシリーズで、こちらもオガーマン編曲です。先ほど紹介した通り、タイトル曲の「Tide」と「Wave」は全く同じコード進行でメロディが違う。2枚を聴き比べると、ジョビンの作曲の凄さが体感できます。

⑤ ジョビン本人の歌唱アルバム

播磨先生播磨先生 🎸
最後に、ジョビン本人が歌っているアルバムをぜひ聴いてほしい。正直に言うと歌は上手くないです(笑)。でも、ジョビンの曲はジョビン本人が歌っているのが一番いい。作曲者だからこそ出せるニュアンスがあるんです。
大倉大倉 💬
確かに、作曲者本人の「こう歌ってほしい」という気持ちが伝わってきますよね。
No. アルバム 推薦者 聴きどころ
Elis & Tom 大倉 ボサノバアルバムNo.1。エリスの歌唱力×ジョビンのピアノ・歌
Getz/Gilberto 大倉 グラミー最優秀アルバム賞。ボサノバを世界に広めた金字塔
Wave(1967) 播磨先生 オガーマン編曲のオーケストラとジョビンの美しい融合
Tide 播磨先生 Waveと対になる姉妹盤。聴き比べで作曲の凄さを実感
ジョビン本人歌唱盤 播磨先生 上手くはないが、作曲者だからこそのニュアンスが最高

ジョビン以外のアーティスト・名盤についてはこちらで紹介しています。


ボサノバのおすすめアーティスト・名盤ガイド|ジョアンからナラ・レオンまで

ジョビンの半音の魔法|聴くときに注目すべきポイント

大倉大倉 💬
ジョビンの曲を聴くとき、ギタリストとして「ここに注目すると面白い」というポイントはありますか?
播磨先生播磨先生 🎸
一番注目してほしいのは「半音の動き」です。ジョビンの最大の特徴は、コードの内声をクロマチック(半音ずつ)に動かすボイシング。この動きを入れるかどうかで、雰囲気が全然違ってくるんです。
大倉大倉 💬
具体的にはどの曲で感じられますか?
播磨先生播磨先生 🎸
例えば「ハウ・インセンシティブ(How Insensitive)」はコードのルートが半音でずっと下がっていく。「イヌチル(Inútil Paisagem)」はメロディが半音でずっと上がっていく。こうした半音の動きが、ジョビンの曲に独特の美しさと緊張感を生んでいるんです。
聴くときのチェックポイント

コードのルート(低音) — 半音ずつ下がっていく動きに注目
内声(コードの中間音) — クロマチックに動く声部を耳で追ってみる
メロディ — 半音で上がる・下がるメロディラインの美しさ
同じ曲のジョビン版とジョアン版を聴き比べる — 同じ曲でも2人のコード進行は異なることがある。ジョビンの方が半音の動きが多い

播磨先生播磨先生 🎸
多くの人がやっていないジョビン本来の半音の動きを入れるかどうかで、演奏の質が大きく変わります。まずは聴くときに「この音が半音で動いているな」と意識するだけで、耳が変わってきますよ。

ジョビンの半音の動きについて、より詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。


ジョビンの半音の魔法|内声の動きが生むボサノバの美しさ

播磨先生のYouTubeチャンネルでも、ジョビンの楽曲を使ったレッスン動画を公開しています。


YouTube「Bossa Nova Guitar HARIMA」

まとめ|ジョビンを聴けばボサノバの本質が見える

大倉大倉 💬
改めて、ジョビンの音楽は本当に奥が深いですね。
播磨先生播磨先生 🎸
自分は長年ボサノバを弾いてきて、結局「ボサノバが好きなんじゃなくて、ジョビンが好きだった」という結論にたどり着きました。それくらい、ジョビンの音楽には他にない特別な魅力があるんです。
今日からできる3ステップ

Step 1:まずは『Elis & Tom』か『Getz/Gilberto』を1枚通して聴いてみる
Step 2:名曲5選の中から1曲選んで、繰り返し聴き込む
Step 3:聴くときに「半音の動き」を意識して、耳を育てる

大倉大倉 💬
僕自身、ジャズギタリストとして20年やってきましたが、『Elis & Tom』は特別なアルバムです。ジャンルを超えて心に響く音楽。ボサノバに興味を持った方は、ぜひジョビンの世界に飛び込んでみてください。

大倉ギター教室では、播磨先生と一緒にジョビンの名曲を使ったボサノバギターレッスンを行っています。


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よくある質問(FAQ)

ジョビンの曲でギター初心者が最初に挑戦すべき曲は?
コルコバード(Key=Am)がおすすめです。テンポが穏やかでコード数も比較的少なく、初心者でも取り組みやすい曲です。
WaveとTideは同じコード進行って本当ですか?
はい、本当です。全く同じコード進行なのにメロディが全然違うという、ジョビンの作曲力を象徴する2曲です。聴き比べてみると作曲の凄さを実感できます。
Getz/Gilbertoはなぜ歴史的名盤と呼ばれるのですか?
アメリカのトップジャズ奏者スタン・ゲッツと、ブラジルのジョアン・ジルベルト&ジョビンの初共演盤であり、1965年にビートルズを抑えてグラミー最優秀アルバム賞を受賞(ジャズ系として史上初)。ボサノバを世界のスタンダード音楽に押し上げた金字塔です。
ジョビンの曲をセッションで演奏するとき気をつけることは?
ジョビン本来の半音の内声の動きを意識することです。簡略化されたコード進行ではなく、原曲のボイシングを取り入れるだけで演奏の雰囲気が大きく変わります。
「トム・ジョビン」と「アントニオ・カルロス・ジョビン」は同じ人ですか?
はい、同一人物です。「トム」は妹のエレーナが幼少期に「アントニオ」と発音できず「トントン」と呼んだことに由来する愛称で、ブラジルでは親しみを込めてこちらが一般的に使われています。

播磨正明

監修:播磨正明(はりま まさあき)

大倉ギター教室 ボサノバギター専任講師。ギター歴40年超。高校1年でギターを始め、アントニオ・カルロス・ジョビンの音楽に衝撃を受けブラジル音楽に傾倒。1984年に三原淑治氏に師事、1991年NYでJoe Beck氏・Rick Stone氏に師事しセッション参加、1993年LAでJohn Pisano氏に師事し「ブラジル音楽のハーモニーエッセンス」を習得。1994年に日本ボサノバギター第一人者・佐藤正美氏に師事し、大阪ライブで前座・共演を重ねる。2024年よりYouTubeチャンネルを開設。
▶ YouTube「Bossa Nova Guitar HARIMA」


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