ボサノバを弾いていると「この曲、どこかで聴いたことがある進行だな」と感じることがありませんか? 実はボサノバには
繰り返し登場する定番のコード進行パターンがいくつかあります。
これらのパターンを知っておくと、初見の曲でも先の展開が読めるようになり、セッションでの対応力が上がります。また、自分でアレンジや作曲をするときの引き出しにもなります。
今回は監修の播磨先生に、ボサノバで頻出するコード進行パターンを5つ教えていただきました。基本コードを覚えた方の「次のステップ」としてぜひ取り組んでみてください。
ボサノバで使う基本コード6選|初心者でも押さえやすいフォームを解説
執筆:大倉甲(大倉ギター教室代表・ジャズギター講師歴20年)/監修:播磨正明(ボサノバ専任講師・ギター歴40年超)
目次
ボサノバのコード進行に「定番」がある理由
大倉 💬
ボサノバの曲を何曲か弾いていると「あ、この進行さっきの曲と同じだ」と気づくことがあるのですが、偶然ですか?
播磨先生 🎸
偶然ではありません。ボサノバはジャズの和声理論をベースにしているので、ジャズと同じ「よく使われるコード進行の型」が存在します。特にジョビンの曲は、この型を絶妙に組み合わせたり、独自のアレンジを加えたりして作られています。
大倉 💬
ジャズの人間からすると親しみのある進行も多いですが、ボサノバならではの使い方があるわけですね。
播磨先生 🎸
そうです。コード進行の「型」自体はジャズと共通するものが多い。でもボサノバではテンションの入れ方や内声の動かし方に独自の美学があります。今回紹介する5つのパターンは代表的なものですが、実際にはボサノバのコード進行は非常に多彩です。この5つだけで全部弾けるわけではないので、あくまで「よく出てくる型」として押さえてください。
コード進行パターンを覚えるメリット
1. 初見の曲でも先の展開が読める — セッションで「次にどこに行くか」が予測できる
2. 耳コピが速くなる — 「あ、これはツーファイブだ」と聴き取れる
3. アレンジ・作曲の引き出しになる — 自分で伴奏をつけるとき選択肢が広がる
パターン① ツーファイブワン(Ⅱm7 → Ⅴ7 → ⅠM7)
播磨先生 🎸
まず最初に覚えるべきはツーファイブワンです。ジャズでもボサノバでも、最も基本的なコード進行パターン。キーがCの場合はDm7 → G7 → CM7。Ⅱ度のマイナーからⅤ度のドミナントを経由してⅠ度に解決する流れです。
Key = C の場合
Dm7 → G7 → CM7
(Ⅱm7 → Ⅴ7 → ⅠM7)
大倉 💬
ジャズでは「ツーファイブが聴こえたらジャズ」とまで言われますが、ボサノバでも同じくらい頻出するんですね。
播磨先生 🎸
そうです。「イパネマの娘」「コルコバード」「ワンノートサンバ」——ジョビンの代表曲のほぼすべてにツーファイブワンが登場します。ボサノバらしさを出すポイントは、Ⅴ7にテンション(♭9、♯9、♭13など)を加えること。テンションを加えることで、解決先のⅠM7に向かう「引力」が強くなります。
テンションコードの詳しい押さえ方はこちらで解説しています。
▶ボサノバのテンションコード入門|7th・9th・13thの使い分け
パターン② セカンダリードミナントを使った循環進行
播磨先生 🎸
次はセカンダリードミナントを使った循環進行です。「イパネマの娘」のBセクション最後にⅢm7 → Ⅵ7 → Ⅱm7 → Ⅴ7 という進行が出てきます。Ⅵ7がセカンダリードミナント(Ⅱm7に向かうドミナント)として機能しているのがポイントです。
Key = F の場合(イパネマの娘 Bセクション最後)
Am7 → D7 → Gm7 → C7
(Ⅲm7 → Ⅵ7 → Ⅱm7 → Ⅴ7)
※D7はGm7に向かうセカンダリードミナント(V/Ⅱ)
大倉 💬
Ⅲm7から始まって、セカンダリードミナントを挟みながらⅤ7に向かう流れですね。
播磨先生 🎸
そうです。ジャズでは1625(Ⅰ→Ⅵ→Ⅱ→Ⅴ)が定番ですが、ボサノバではセカンダリードミナントを挟んだ循環進行の方がよく出てきます。こうしたバリエーションを知っておくと、コード進行の引き出しが広がります。
イパネマの娘をはじめ、練習に最適な曲はこちらで紹介しています。
▶ボサノバギターのおすすめ練習曲10選|初級〜中級レベル別に紹介
パターン③ パッシングディミニッシュ(クロマチック・アプローチ)
播磨先生 🎸
3つ目はパッシングディミニッシュ。ダイアトニックコード同士の間にディミニッシュコードを挟むことで、ベースラインが半音で滑らかにつながる進行です。ジョビンが特に好んで使いました。
Key = C の場合
CM7 → C♯dim7 → Dm7 → D♯dim7 → Em7 …
ベースライン:C → C♯ → D → D♯ → E(半音ずつ上昇)
大倉 💬
ベースが半音ずつ上がっていく感じ、すごくボサノバっぽい響きですね。
播磨先生 🎸
まさにジョビンの十八番です。「Desafinado(デサフィナード)」のBメロ冒頭にこのパッシングディミニッシュが使われています。ダイアトニックコードの間にdim7を挟んで、ベースが半音で滑らかにつながる。これがジョビンらしいサウンドを生み出しています。
パッシングディミニッシュのギターでの弾き方
ディミニッシュコードはフレットを3つずらすだけで同じフォームが使える(構成音が短3度の等間隔のため)。つまり1つのフォームを覚えるだけで、3フレット刻みのどの位置でもdimが弾けます。基本コードでdim7を学んだ方は、このパッシングディミニッシュが実践的に使えるはずです。
パターン④ マイナー・クリシェ(内声が半音で下降)
播磨先生 🎸
4つ目はマイナー・クリシェ。マイナーコードの内声(構成音の一部)を半音ずつ下降させる進行です。「クリシェ」は「常套句」という意味で、ジャズ、ポップス、映画音楽などあらゆるジャンルで使われる定番テクニックです。
Key = Am の場合
Am → AmM7 → Am7 → Am6
内声の動き:A → G♯ → G → F♯(半音ずつ下降)
大倉 💬
ジャズスタンダードやポップスでもよく見かけるパターンですよね。
播磨先生 🎸
その通り。クリシェはジャズ、ポップス、映画音楽などあらゆるジャンルで使われる非常にポピュラーなテクニックです。ボサノバの中で特定の曲に使われているというより、音楽全般の「引き出し」として知っておくと、アレンジの幅が広がります。
播磨先生 🎸
ギターで弾くときのポイントは、動かない音(ルートや5度)はそのままキープして、動く声部だけを半音ずつずらすこと。指1本の動きで響きが変わるのがクリシェの面白さです。
ジョビンの半音の動きについてさらに深く学びたい方はこちらもどうぞ。
▶ジョビンの半音の魔法|内声の動きが生むボサノバの美しさ
パターン⑤ サブドミナントマイナー(Ⅳm7 or ♭Ⅶ7)
播磨先生 🎸
最後はサブドミナントマイナー。メジャーキーの中にⅣm7(サブドミナントマイナー)や♭Ⅶ7を挟むことで、一瞬だけ切ない「陰り」が生まれる進行です。
Key = C の場合
CM7 → Fm7 → CM7
(ⅠM7 → Ⅳm7 → ⅠM7)
または
CM7 → B♭7 → CM7
(ⅠM7 → ♭Ⅶ7 → ⅠM7)
大倉 💬
メジャーキーなのに突然マイナーの響きが入ってくると、ハッとする瞬間がありますよね。
播磨先生 🎸
そのハッとする感覚がボサノバの「サウダージ(郷愁・切なさ)」を生み出しています。「Wave」のサビで♭Ⅶ7が使われていますし、「Corcovado」にもサブドミナントマイナーの響きが出てきます。明るさの中に一瞬の切なさを差し込む——これがジョビンの天才的なところです。
5つのパターンの使われ方
実際のボサノバの楽曲では、これら5つのパターンが単独で使われることは少なく、複数のパターンが1曲の中で組み合わさって登場します。たとえば「Wave」には、ツーファイブワン・サブドミナントマイナー・半音の動きがすべて含まれています。パターンを知ったうえで実際の曲を分析すると、コード進行の理解が格段に深まります。
播磨先生の演奏でコード進行の響きを体感してみてください。
▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA
まとめ:5つの定番コード進行パターンを引き出しに
この記事のポイント
① ツーファイブワン(Ⅱm7→Ⅴ7→ⅠM7) — 最も基本的な進行。Ⅴ7にテンションを加えてボサノバらしさを出す
② セカンダリードミナントの循環進行 — イパネマの娘のBセクション最後(Ⅲm7→Ⅵ7→Ⅱm7→Ⅴ7)
③ パッシングディミニッシュ — ベースラインが半音でつながる。ジョビンの十八番
④ マイナー・クリシェ — 内声が半音で下降。あらゆるジャンルで使われる定番テクニック
⑤ サブドミナントマイナー — 明るさの中に一瞬の切なさ。サウダージの源泉
これらはボサノバで頻出する代表的なパターンですが、ボサノバのコード進行は他にも非常に多彩です。まずはこの5つを入口として、実際の曲の中で「あ、これはツーファイブだ」「ここはクリシェだ」と見つけてみてください。
大倉ギター教室のボサノバコースでは、基本コードを覚えた方に向けてコード進行の理論と実践を段階的にレッスンしています。
リズムパターンとシンコペーションの技術も合わせて習得すると、演奏の完成度が大きく上がります。
▶ボサノバの基本リズムパターン3つ|右手の弾き方を譜例付きで解説
▶ボサノバのシンコペーションを攻略|「食って入る」リズムの練習法
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よくある質問(FAQ)
コード進行のパターンはいつ頃から学べばいいですか?
基本コード6選(M7、m7、7の5弦・6弦ルート)をスムーズに押さえ替えできるようになってからがおすすめです。コードの「形」が身についていれば、進行の「流れ」も理解しやすくなります。
この5つのパターンを覚えればボサノバの曲は全部弾けますか?
全部弾けるわけではありません。ボサノバのコード進行は非常に多彩で、この5つ以外にもさまざまなパターンがあります。ただし、この5つはボサノバで最も頻出する代表的な型なので、まずはここを押さえておくと初見の曲でも展開が読みやすくなります。
ジャズのコード進行との違いは何ですか?
コード進行の「型」自体はジャズと共通するものが多いです。違いはテンションの入れ方と内声の動かし方にあります。ボサノバでは特に半音でテンション同士をつなげる動きが特徴的で、ジョビンの曲にはその美学が凝縮されています。
クリシェはボサノバ特有のテクニックですか?
いいえ。クリシェ(内声の半音進行)はジャズ、ポップス、映画音楽などあらゆるジャンルで広く使われる定番テクニックです。ボサノバ特有ではありませんが、アレンジや作曲の引き出しとして知っておくと表現の幅が広がります。
コード進行を覚えるのに効果的な練習法はありますか?
実際の曲を弾きながら「この部分はツーファイブだ」「ここはパッシングディミニッシュだ」と分析するのが最も効果的です。まずは「イパネマの娘」と「コルコバード」の2曲を、コード進行のパターンを意識しながら弾いてみてください。
監修:播磨正明(はりま まさあき)
大倉ギター教室 ボサノバギター専任講師。ギター歴40年超。高校1年でギターを始め、アントニオ・カルロス・ジョビンの音楽に衝撃を受けブラジル音楽に傾倒。1984年三原淑治氏に師事、1991年NYでJoe Beck氏・Rick Stone氏に師事しセッション参加。1993年LAでセルジオ・メンデス等ボサノバの名手と共演してきたJohn Pisano氏に師事。1994年より日本ボサノバギター第一人者・佐藤正美氏に師事し、大阪ライブで前座・共演を重ねる。2024年YouTubeチャンネル「Bossa Nova Guitar HARIMA」開設。
▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA