ジョビンの半音の魔法|内声の動きが生むボサノバの美しさ | 大倉ギター教室

ボサノバの名曲を弾いていて「コードは合っているはずなのに、何か物足りない」と感じたことはありませんか?

その原因は、アントニオ・カルロス・ジョビンが仕掛けた半音の動きを再現できていないからかもしれません。内声をクロマチックに動かすボイシングこそ、ジョビンの音楽が美しく響く最大の秘密です。

今回は播磨先生に、ほとんどのギタリストが見落としているジョビン本来のボイシングについて教えていただきました。

執筆:大倉甲(大倉ギター教室代表・ジャズギター講師歴20年)/監修:播磨正明(ボサノバ専任講師・ギター歴40年超)

目次

ジョビンの音楽を特別にしているもの — 半音の動きとは

大倉大倉 💬
ジョビンの曲って、他のボサノバの作曲家と何が違うんですか?コード進行を見ると特に変わったことをしていないように見えるんですが。
播磨先生播磨先生 🎸
そう見えるところが、実はジョビンのすごいところなんです。ジョビンの音楽の核心は内声の半音の動き。コードの中の1つの音が半音ずつ上がったり下がったりすることで、ハーモニーが滑らかに変化していくんです。
大倉大倉 💬
ジャズでもクロマチックな動きは使いますが、ジョビンの場合は何が違うんでしょう?
播磨先生播磨先生 🎸
ジョビンの場合、半音の動きが作曲の根幹に組み込まれているんです。そもそもジョビンの曲はコード進行自体が特殊なものが多い。メロディ自体が半音で動く曲、ベース(ルート)が半音で動く曲、コードの内声が半音で動く曲、さらにトップノートのテンションが半音で動く曲——あらゆるレベルで半音を使い分けている。しかもそれが「聴いていて心地よい」ように計算されている。
播磨先生播磨先生 🎸
問題は、みんなこの半音の動きをやっていないということ。普通のコードブックに載っているフォームで弾くと、ジョビンが仕掛けた内声やトップノートの動きが消えてしまう。同じ曲でも、本来のボイシングで弾くかどうかで雰囲気が全然違うんです。
ジョビンの「半音の動き」4つのレベル

① メロディが半音で動く — メロディライン自体が半音ずつ上昇・下降する
② ルート(ベース音)が半音で動く — コードのルートが半音ずつ下がっていく
③ 内声が半音で動く — コードの中間音がクロマチックに動き、ハーモニーが滑らかに変化する
④ トップノートのテンションが半音で動く — コードの最高音(テンション)が半音ずつ移動する

半音の動きが際立つジョビンの代表曲

大倉大倉 💬
具体的にジョビンのどの曲で半音の動きが顕著に表れていますか?
播磨先生播磨先生 🎸
代表的な曲をいくつか挙げますね。それぞれ半音の使い方が違うので、聴き比べるとジョビンの引き出しの多さがよくわかりますよ。
曲名 半音の動き方 特徴
ハウ・インセンシティブ
(How Insensitive)
ルートが半音で下降 コードのルートが半音ずつ下がり続ける。ジョビンの半音テクニックの代表格
イヌチル
(Inútil Paisagem)
メロディが半音で上昇 メロディラインが半音でずっと上がっていく。切ない美しさの源泉
ノーストップ・トゥ・ブラジル
(No More Blues)
メロディが半音で下降 メロディが半音ずつ下がっていく構造
ワンノートサンバ
(One Note Samba)
内声が半音で動く 見た目以上に深い曲。ディミニッシュ経由の半音の動きが隠されている
タイド / ウェーブ
(Tide / Wave)
同じコード進行・異なるメロディ 全く同じコード進行で2曲作った驚異的な例
大倉大倉 💬
タイドとウェーブが同じコード進行というのは面白いですね。ジャズでも同じコード進行で別の曲を作る例はありますけど。
播磨先生播磨先生 🎸
そうですね、ジャズでもよくあることです。ただジョビンの場合は、コード進行そのものに半音の動きを仕込んでいるから、その上にどんなメロディを乗せても美しく響く。タイドとウェーブは、まさにそれを証明する2曲なんです。
播磨先生播磨先生 🎸
特にワンノートサンバは要注意です。シンプルに見える曲ですが、ほとんどの人がやっていない本来のボイシングがある。ディミニッシュコードの使い方まで再現すると、全然違う響きになります。

ジョビンの曲を含む練習曲リストはこちらで紹介しています。


ボサノバの定番コード進行パターン5選|曲作り・アレンジにも使える

ディミニッシュコードと半音の関係

大倉大倉 💬
ワンノートサンバのディミニッシュの話が気になります。ディミニッシュコードと半音の動きはどう関係しているんですか?
播磨先生播磨先生 🎸
ディミニッシュコードは半音の動きの「中継点」として機能するんです。あるコードから次のコードへ行くとき、間にディミニッシュを挟むと、内声が半音ずつ滑らかに移動する。階段を一段ずつ上がるようなイメージですね。
大倉大倉 💬
ジャズでも「パッシングディミニッシュ」として使いますね。ジョビンの場合はそれを意図的に曲の中に書き込んでいるわけですね。
播磨先生播磨先生 🎸
その通りです。ワンノートサンバでは、多くの人がディミニッシュを省略したり別のコードに置き換えて弾いている。でもジョビンが書いた本来のボイシングにはディミニッシュが入っている。これを再現するだけで、曲の持つ「滑らかさ」が全然変わります。

ディミニッシュコードのフォームを確認しておきましょう。5弦ルートと6弦ルートの2つを覚えれば、ルートをずらすだけで全キーに対応できます。

Cdim7(5弦ルート)

Cdim7(5弦ルート)
Gdim7(6弦ルート)

Gdim7(6弦ルート)
ディミニッシュコードの特徴

構造:全ての構成音が短3度(3フレット)間隔で並んでいる
特性:3フレットずらすと同じ構成音になるため、実質3つのフォームで全キーをカバーできる
ジョビンでの役割:コード間の「中継点」として、内声を半音で滑らかにつなげる

ディミニッシュの前提となる基本コードフォームはこちらで解説しています。


ボサノバで使う基本コード6選|初心者でも押さえやすいフォームを解説

開放弦を使った「半音ぶつけ」のボイシング

大倉大倉 💬
先生のYouTubeを見ていると、開放弦を使った独特の響きのコードが出てきますよね。あれも半音の動きと関係がありますか?
播磨先生播磨先生 🎸
まさにそうです。開放弦の音と押弦した音が半音でぶつかることで、テンション感のある美しい響きが生まれるんです。ボサノバ特有の「おしゃれな響き」の正体は、実はこの半音のぶつかりなんですよ。
播磨先生播磨先生 🎸
いくつか具体例をお見せしますね。トニーニョ・オルタやイヴァン・リンスもこの系統のボイシングをよく使います。

Dm7(13) — 半音ぶつけの代表例

Dm7(13)コードダイアグラム

Dm7(13) — セブンスとシックス(サーティンス)が同居するボイシング
播磨先生播磨先生 🎸
このDm7(13)は、Dマイナーにセブンスとシックス(サーティンス)を両方入れたボイシングです。普通はどちらか片方しか入れませんが、両方入れることで半音のぶつかりが生まれて、独特の浮遊感が出るんです。

Em7(9) / Am7(9) — 開放弦テンション

Em7(9)コードダイアグラム

Em7(9)
Am7(9)コードダイアグラム

Am7(9)
播磨先生播磨先生 🎸
Em7(9)もAm7(9)も、開放弦を活かしたボイシングです。押さえている音と開放弦が半音でぶつかって、テンションが自然に響く。ギターという楽器ならではの美しさですね。
大倉大倉 💬
このEm7(9)やAm7(9)のボイシングは、実はジャズミュージシャンもよく使いますよね。
播磨先生播磨先生 🎸
そうなんです。ジャンル問わずギタリストに愛されるボイシングですね。ただ、ボサノバの文脈でこれを使うと開放弦の響きがガットギターの柔らかい音色と相まって、独特の浮遊感が出る。ジャズのエレキギターで弾くのとはまた違った味わいがあります。
播磨先生播磨先生 🎸
そうなんです。ガットギターの開放弦の柔らかい音色だからこそ、半音のぶつかりが「不協和」ではなく「美しい緊張感」に聴こえる。ジョビンはこの響きを知り尽くしていたから、あれだけ美しい曲が書けたんだと思います。
注意:まずは基本コードとテンションコードから

この記事で紹介した半音ぶつけのボイシングは、基本コード6つとテンションコードを覚えた上でのステップアップです。まだ基本フォームに不安がある方は、焦らず基礎から固めていきましょう。

テンションコードの基礎はこちらで解説しています。


ボサノバのテンションコード入門|7th・9th・13thの使い分け

大倉ギター教室のボサノバコースでは、こうした実践的なボイシングを播磨先生が直接指導しています。譜面には載っていない「ジョビン本来の響き」をレッスンで体感できます。

播磨先生のボイシングはYouTubeでも視聴できます。

▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA

まとめ — 半音の動きを意識するだけで演奏が変わる

播磨先生播磨先生 🎸
ジョビンの曲を弾くとき、ただコードを追うだけじゃなく「この音が半音で動いているな」と意識する。それだけで演奏の質は大きく変わります。ジョビンが仕掛けた美しさを、ぜひ自分の手で再現してみてください。
この記事のポイント

① ジョビンの核心は半音の動き — メロディ・ルート・内声・トップノートの4つのレベルで半音を使い分けている
② 代表曲ごとに半音の使い方が違う — ハウインセンシティブはルート下降、イヌチルはメロディ上昇
③ ディミニッシュは半音の中継点 — ワンノートサンバでは省略せず本来のボイシングで弾くと響きが激変する
④ 開放弦の半音ぶつけ — Dm7(13)やEm7(9)など、ガットギターならではの美しいテンション
⑤ 本来のボイシングで弾くかどうかで雰囲気が全然違う — 多くの人がやっていないからこそ差がつく

大倉ギター教室のボサノバコースでは、ジョビンの半音の動きを再現するボイシングを段階的にレッスンしています。「あの響き」を自分の手で出せるようになる喜びを、ぜひ体験してみてください。

「ジョビンの曲を本来のボイシングで弾いてみたい」という方へ
播磨先生が、あなたのレベルに合わせて段階的に指導します。

無料体験レッスンはこちら

よくある質問(FAQ)

ジョビンの半音の動きとは何ですか?
コードの内声(中間音)が半音ずつ上下に動くことで、ハーモニーが滑らかに変化する手法です。メロディが半音で動く曲、ルートが半音で動く曲、内声が半音で動く曲、トップノートのテンションが半音で動く曲と複数のレベルがあり、ジョビンはこれを意図的に使い分けています。
半音の動きが特徴的なジョビンの曲は?
ハウ・インセンシティブ(ルートが半音で下降)、イヌチル(メロディが半音で上昇)、ワンノートサンバ(ディミニッシュ経由の内声の半音の動き)などが代表的です。タイドとウェーブは同じコード進行で異なるメロディを乗せた驚異的な例です。
ディミニッシュコードはボサノバでどう使われますか?
コードとコードの間の「中継点」として使われます。ディミニッシュを挟むことで内声が半音ずつ滑らかに移動し、クロマチックな進行が生まれます。ワンノートサンバなどジョビンの曲では省略せず弾くことで本来の美しさが再現できます。
開放弦を使った半音ぶつけのボイシングとは?
開放弦の音と押弦した音が半音でぶつかることで、自然なテンション感が生まれるボイシングです。Dm7(13)やEm7(9)、Am7(9)などが代表例。ガットギターの柔らかい音色だからこそ美しく響きます。
半音の動きを自分の演奏に取り入れるにはどうすればいい?
まず基本コード6つとテンションコードを覚えた上で、コード間の内声の動きを意識して弾くことから始めましょう。レッスンでは講師が具体的なボイシングとその使いどころを直接指導します。

播磨正明

監修:播磨正明(はりま まさあき)

大倉ギター教室 ボサノバギター専任講師。ギター歴40年超。高校1年でギターを始め、アントニオ・カルロス・ジョビンの音楽に衝撃を受けブラジル音楽に傾倒。1984年三原淑治氏に師事、1991年NYでJoe Beck氏・Rick Stone氏に師事しセッション参加。1993年LAでセルジオ・メンデス等ボサノバの名手と共演してきたJohn Pisano氏に師事。1994年より日本ボサノバギター第一人者・佐藤正美氏に師事し、大阪ライブで前座・共演を重ねる。2024年YouTubeチャンネル「Bossa Nova Guitar HARIMA」開設。
▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA


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