第33回:巨匠コルトレーンの発明「マルチトニック」

こんにちは。「大倉ギター教室」の大倉です。

ジャズギターと音楽理論の完全読破ロードマップ、今回は第33回です。 今日の**結論(最重要ポイント)**からお伝えします。

💡 今日の結論:コルトレーンは音楽に「宇宙の設計図」を見た

  1. 革命: 1曲の中に**「3つの太陽(トニック)」**が存在するマルチバースなシステム。
  2. 幾何学: オクターブを長3度で3等分すると現れる**「正三角形(C-E-Ab)」**のサイクル。
  3. 効果: 円(5度進行)の常識を覆した、光速で次元を超えるワープのような響き。

ジャズミュージシャンが必ず一度は絶望し、そして魅了される曲。それがジョン・コルトレーンの**『Giant Steps』です。 なぜこの曲はこれほどまでに難解で、美しいのか? それは、彼が音楽を「物語」としてではなく、「幾何学(図形)」**として捉えたからです。

1. 複数の太陽を持つ「マルチバース」

これまでの音楽は、一つの太陽系のようなものでした。 「Cメジャー」という太陽(トニック)があり、全てのコードはその重力に引かれて動いていました。

しかし、コルトレーンが考案した**「マルチトニック・システム」は違います。 1曲の中に、同等の力を持つ「3つの太陽」**が存在するのです。

  • ここはCメジャーの世界…かと思いきや、
  • 次の瞬間、Eメジャーの世界へワープし、
  • さらにAbメジャーの世界へワープする。

どこが中心(ホーム)なのかわからない。 重力が多方向に働く**「マルチバース(多重宇宙)」**。それがこのシステムの正体です。

2. 五度圏を超えた「神聖幾何学」

では、その「3つの太陽」はどうやって選ばれたのか? ここで**数学(幾何学)**が登場します。

従来のジャズは「五度圏(ド→ソ→レ…)」という**「円」の動きが基本でした。 しかしコルトレーンは、オクターブ(12個の音)を、「長3度(4半音)」という間隔で、機械的に・人工的にバッサリと3等分**したのです。

  • C から長3度上 → E
  • E から長3度上 → Ab (G#)
  • Ab から長3度上 → C (戻った!)

この3点を結ぶと、音楽の円環の中に、完璧な対称性を持つ**「正三角形」**が浮かび上がります。

自然な「円」ではなく、人工的で鋭角な「三角形」。 この神聖幾何学的なグリッドの上を、猛スピードで移動する。 これが「コルトレーン・チェンジ」と呼ばれる進行の仕組みです。

3. 次元を超える「宇宙のワープ」

この理論を実際の演奏に使うと、どうなるか。 それは**「宇宙のワープ」**です。

通常の「II-V-I(ツーファイブ)」という滑らかな道路を走っている最中に、突如としてこの「正三角形の理屈」で空間が歪められ、別のキーへと強制転送されます。

聴き手は、物語の情緒に浸る暇もありません。 次々と切り替わる景色、予測不能な重力変化。 しかし、その動きには「正三角形」という完璧な秩序があるため、カオスなのに美しく聞こえるのです。

コルトレーンは、感情で音楽を作るのをやめ、**「宇宙の真理(物理法則)」**を音で表現しようとしたのかもしれません。

まとめ:今日の持ち帰りメモ

忙しい方のための3行まとめです。

  1. マルチトニックは、1曲の中に**複数の中心(トニック)**を持つシステム。
  2. オクターブを長3度で割った**「正三角形」**のキーを移動する。
  3. それは感情的な物語ではなく、宇宙の設計図を描くような音楽。

さあ、次はいよいよ最終回です。 「ドレミ禁止」から始まったこの長い旅も、ついにゴールを迎えます。 最後は、この膨大な理論をどうやって「自分の音」にするのか。そして、終わりのない音楽の旅についてお話しします。

「コルトレーンチェンジ、指板だとどう見えるの?」 実はギターの指板で見ると、**「4フレットごとに同じ形がズレていく」**という、非常に視覚的なパターンになります。大倉ギター教室で、その「形の秘密」をお見せします。