第32回:2つのキーを同時に?「ポリコード」の世界

こんにちは。「大倉ギター教室」の大倉です。

ジャズギターと音楽理論の完全読破ロードマップ、今回は第32回です。 今日の**結論(最重要ポイント)**からお伝えします。

💡 今日の結論:ポリコードは「音の二重露光」だ

  1. 構造: 一つのコードの上に、別の独立したコードを完全に重ねてしまう技法。
  2. UST: **「C7」の上に「D」**を乗せるなど、ドミナント上で使うと強烈なテンションが生まれる。
  3. 効果: 右目と左目で違う景色を見るような、**知的な「複調(ポリトナリティ)」**の響き。

前回のハイブリッドコードは「ベース音 + コード」でした。 今回のポリコードは**「コード + コード」**です。 情報量が倍増します。もはや「濁り」さえも美しさに変えてしまう、上級者の世界へようこそ。

1. フィルムを重ねる「二重露光」

**ポリコード(Polychord)**とは、異なる2つの和音を同時に鳴らすことです。 楽譜では、分数コードのような斜線(/)ではなく、**横線(―)**で上下に分けて書かれることが多いです。

これは、カメラのテクニックである**「二重露光(Double Exposure)」**に似ています。

  • 下のコード(C7): 「都会のビル群」の写真。
  • 上のコード(D): 「森の木漏れ日」の写真。

この2枚を重ねるとどうなるか? 「ビルの中に森がある」ような、現実にはあり得ない、しかし幻想的で美しい写真が出来上がります。

それぞれのコードが持つ「調性(キー)」という背景が透けて重なり合うことで、単一のコードでは絶対に表現できない**「深み」「奥行き」**が生まれるのです。

2. ジャズピアノの必殺技「UST」

「コードの上にコードなんて、指が足りないよ!」 と思ったギタリストの皆さん。その通りです。これは本来、両手が使えるピアニストの得意技です。

特にジャズでは、**UST(アッパー・ストラクチャー・トライアド)**という名前で親しまれています。

【例:C7(ドミナント)の上で遊ぶ】 左手で「C7(ジャーン)」と弾きながら、右手で**「Dメジャー(レ・ファ#・ラ)」**を弾いてみてください。

すると、C7に対して以下の音が足されます。

  • レ (9th)
  • ファ# (#11th)
  • ラ (13th)

あら不思議。 「Dを乗せる」と考えるだけで、計算の難しいテンションが全部入った**「リディアン・ドミナント」**の響きが一瞬で完成しました。

「青い絵の具(C7)」の上に、あえて「黄色い絵の具(D)」をぶちまける。 その衝突によって生まれる**「鮮烈な中間色(テンション)」**を楽しむのが、USTの醍醐味です。

3. 右目と左目で違う景色を見る

ポリコードを使うと、音楽の中に**「2つの中心(キー)」が生まれます。 これを「複調(ポリトナリティ)」**と言います。

  • 下の音: Cメジャーキーの世界
  • 上の音: Dメジャーキーの世界

聴いている人の脳は、一瞬混乱します。 「あれ? 今どっちのキーにいるんだ?」

まるで、右目と左目で全く違う景色を見ているような感覚。 この**「脳がくすぐられるような知的な違和感」**こそが、ビル・エヴァンスやハービー・ハンコックなど、モダンジャズの巨匠たちが求めたサウンドの正体です。

一見バラバラに聞こえるかもしれません。 しかし、高い視点から見れば、それは**「極上のテンション(色彩)として調和している」**のです。 「不協和音」と「美しい和音」の境界線は、実は私たちが思っているよりもずっと曖昧なのかもしれません。

まとめ:今日の持ち帰りメモ

忙しい方のための3行まとめです。

  1. ポリコードは、コードの上に別のコードを重ねる**「二重露光」**の技法。
  2. UST(アッパーストラクチャー)を使えば、簡単なトライアドで複雑なテンションが出せる。
  3. 複数のキーが同時に鳴る**「複調」**の響きは、知的でモダンな世界を作る。

次回は、いよいよロードマップの最終講義(の一つ前)。 天才ジョン・コルトレーンが発明した、ジャズ理論の最高到達点。 3つのキーを光速で行き来する**「マルチトニック(コルトレーンチェンジ)」**に挑みます。

「ギターでポリコードは無理?」 一人で弾くのは大変ですが、**「バンドで弾く」**なら簡単です。 ベースの人にCを弾いてもらって、自分はDを弾く。これだけで立派なポリコード。 大倉ギター教室では、そんな「バンドアンサンブルでの手抜き(兼・高等テクニック)」もお教えします。