第20回:切なさのスパイス「モーダルインターチェンジ」

こんにちは。「大倉ギター教室」の大倉です。

ジャズギターと音楽理論の完全読破ロードマップ、今回は第20回です。 今日の**結論(最重要ポイント)**からお伝えします。

💡 今日の結論:モーダルインターチェンジは「モノクロの魔法」だ

  1. 借用: 明るいメジャーキーの中に、隣のマイナーキーの和音を一時的に借りてくる技法。
  2. 代表格: サブドミナントマイナー(IVm)。「F」を「Fm」にするだけで、景色が一瞬で夕暮れになる。
  3. 正体: スケールにない**「b6(ラb)」の音**が、胸を締め付ける「エモさ」の正体。

明るい曲なのに、なぜか急に懐かしい気持ちになったり、胸がキュッとしたりする。 その正体は、この「借りてきた音」にあります。

1. 隣町から「影」を借りてくる

Cメジャーキー(ドレミファソラシド)の世界は、明るくて平和な「晴れの国」です。 しかし、すぐ隣にはCマイナーキー(ドレミbファソラbシbド)という、少し影のある「曇りの国」があります。

この二つの国は、「ルート(C)」という住所が同じなので、簡単に行き来ができます(同主調の関係)。

モーダルインターチェンジとは、 「晴れの国の曲なんだけど、ここだけちょっと**『曇りの国の住人(コード)』**を借りてこようかな」 というテクニックです。

ずっと明るいだけじゃつまらない。 そこに一瞬だけ「マイナーキーのコード」を混ぜることで、ハッとするような陰影を与えることができます。

2. 世界を「セピア色」に変えるコード(IVm)

一番よく使われる借り物が、**「サブドミナントマイナー(IVm)」です。 Cメジャーキーで言うと、「Fm」**のことです。

通常の進行と聴き比べてみましょう。

  • 通常:C (家) → F (明るいカフェ) → G (盛り上がり) → C (帰宅)
    • ずっとカラー映像。元気な昼間の散歩です。
  • 借用:C (家) → Fm (???) → C (帰宅)
    • Fmを弾いた瞬間、世界が急に**「セピア色(モノクロ)」**になりませんか?

まるで映画の回想シーンのように、**「楽しかった過去をふと思い出した」ような、強烈なノスタルジー(懐かしさ)が生まれます。 これがJ-POPや映画音楽で多用される「エモい進行」**の正体です。

3. 涙のスイッチは「ラb」にある

なぜ、F(ファ・ラ・ド)を Fm(ファ・ラb・ド)にするだけで、こんなに切なくなるのでしょうか?

犯人は**「ラb(フラット6)」**という音です。

Cメジャースケール(ドレミファソラシド)には、「ラb」なんて音はありません。 この「ラb」は、マイナーキーの世界から持ち込まれた異物です。

明るい響きの中に、この**「短6度(ラb)」が一滴混ざることで、人間の脳は本能的に「悲しみ」や「陰り」を感じ取ります。 それはまるで、「綺麗な水に、黒いインクをポチョンと一滴垂らしたような美しさ」**です。

作曲家たちは、ここぞという場面でこの「ラb」を忍ばせて、聴き手の涙腺を刺激しているのです。

いかがでしたか?

「理論」というと計算式のように思えますが、モーダルインターチェンジは**「感情の演出」**そのものです。 「ここでちょっと切なくしたいな」と思ったら、迷わずサブドミナント(IV)をマイナー(IVm)に変えてみてください。一発で空気が変わりますよ。

次回は、ジャズマンの常套句。 「G7」の代わりに使える、ちょっと悪そうな代理コード**「裏コード(トライトーン・サブスティチューション)」**について解説します。