ジョアン・ジルベルトの奏法を解説|ボサノバギターの原点を知る | 大倉ギター教室

ボサノバギターを語る上で、ジョアン・ジルベルトの名前を避けて通ることはできません。

サンバのリズムをイーブンに変え、テンポを落とし、ギター1本で新しい音楽を作り上げた——ジョアンの奏法にはボサノバの本質がすべて詰まっています

今回は播磨先生に、ジョアンの奏法の特徴を「リズム」「ベースライン」「コード」の3つの視点から解説していただきました。

執筆:大倉甲(大倉ギター教室代表・ジャズギター講師歴20年)/監修:播磨正明(ボサノバ専任講師・ギター歴40年超)

目次

ジョアン・ジルベルトが起こしたリズム革命

大倉大倉 💬
ジョアン・ジルベルトがボサノバを「発明した」と言われますが、具体的に何をしたんですか?
播磨先生播磨先生 🎸
ジョアンがやったことは、大きく分けて2つです。1つ目は、サンバのリズムを完全にイーブン(均等)にしたこと。2つ目は、テンポを大幅に落としたこと。極端に言えばサンバの半分くらいまで落としたんです。
大倉大倉 💬
サンバはもともとイーブンではないんですか?
播磨先生播磨先生 🎸
サンバは2拍子で16分音符が基本という点はボサノバと同じですが、リズムが「跳ねる」んです。サンバで使うタンボリンという楽器は、演奏中に楽器を裏返す動作が必要で、その一瞬の遅れが独特のハネ——「なまり」を生む。ジョアンはこのハネを取り除いて、完全にイーブンにした。
播磨先生播磨先生 🎸
ジョアンがこの新しいリズムをジョビンに聴かせて、ジョビンがその上に作曲した。そこからボサノバが生まれたんです。つまりジョアンのリズム革命がなければ、ジョビンの名曲も存在しなかったということです。
ジョアンが変えた2つのこと

① リズムをイーブンにした — サンバの「ハネ」を取り除き、音の間隔を均等にした
② テンポを大幅に落とした — サンバの速さを半分近くまで落とし、ゆったりとした空気感を作った

サンバからボサノバへの歴史的な変遷についてはこちらで詳しく解説しています。


ボサノバの歴史|サンバからジョアンが生んだ革命

基本パターン1 — ジョアンのリズムの核心

大倉大倉 💬
ジョアンが実際に使っているリズムパターンはどのようなものですか?
播磨先生播磨先生 🎸
ジョアンが最も頻繁に使っているのが基本パターン1です。これはジョアンが得意としたパターンで、さまざまな曲に使用しています。これだけで1曲通すこともある。ジョアンにとって、シンプルなパターンを完璧に弾くことこそがボサノバなんです。
ボサノバ基本リズムパターン1

基本パターン1 — ジョアン・ジルベルトが最も多用するリズムパターン
大倉大倉 💬
構造としてはどうなっていますか?
播磨先生播磨先生 🎸
1拍目だけ全弦を弾き、あとは親指(p)とフィンガー(i・m・a)の交互で構成されています。シンプルに見えますが、最も重要なのはベースのp(親指)にリズムのアクセントを置くこと。ここがブレると、ボサノバのグルーヴが崩れます。
播磨先生播磨先生 🎸
注意点は、2拍目のシンコペーションの位置にアクセントが付きやすいことです。つい強調してしまいがちですが、2拍目の親指(p)の4分音符にしっかりアクセントを保つこと。これがジョアンのグルーヴの核心です。
基本パターン1のポイント

構造:1拍目=全弦、それ以降=親指とフィンガーの交互
最重要:親指(p)のベース音にアクセントを置く
注意:シンコペーション部分ではなく、拍頭の親指にアクセントを保つ
ジョアンの姿勢:このパターン1つで1曲通すことも珍しくない

パターン1の詳しい弾き方と注意点はこちらで解説しています。


ボサノバの基本リズムパターン3つ|右手の弾き方を譜例付きで解説

ベースを動かさない — ジョアン独自のスタイル

大倉大倉 💬
ジョアンの演奏を聴いていると、ベースラインがあまり動かない印象があります。これは意図的なものですか?
播磨先生播磨先生 🎸
意図的です。これはジョアンの奏法の最大の特徴のひとつと言っていい。一般的なギタリストは、ギター1本で弾き語りするときに6弦側でベースラインを動かしたくなるんです。低音の動きがあった方が音楽的に豊かに聴こえるから。
大倉大倉 💬
ジャズでもベースラインを入れたがるギタリストは多いですね。ジョー・パスなんかはまさにそのスタイルです。
播磨先生播磨先生 🎸
そうですよね。でもジョアンはコードのルート音は弾くけれど、ベースラインとして動かすことはしない。ルートを弾いたら、あとはリズムパターンに集中する。ベースを動かさないことで、イーブンなリズムの安定感が保たれるんです。
大倉大倉 💬
ベースを動かすのは「間違い」なんですか?
播磨先生播磨先生 🎸
やっておかしいことは全くありません。ただ、ジョアンのスタイルとしてはやらない。私も基本的にはベース音を動かさない派です。必要な箇所だけ動かすことはありますが、基本はルート音を置くだけ。それとバンドでベーシストがいれば当然ベースラインは必要ないですしね。
ジョアンのベースラインの考え方

ルート音は弾く:コードの根音として最低限のベースは入れる
ベースラインとしては動かさない:ルートから別の音へ「歩く」ような動きはしない
結果:リズムパターンの安定感とイーブンなグルーヴが保たれる
動かしても間違いではない:あくまでジョアンのスタイルとしての特徴

大倉ギター教室のボサノバコースでは、ジョアンのスタイルをベースにしたリズムとベースの弾き方を指導しています。

ジョアンとジョビン — 同じ曲でもコードが違う

大倉大倉 💬
ジョアンとジョビンの関係は、ボサノバの歴史の中で特別なものですよね。2人の音楽的な違いはどこにありますか?
播磨先生播磨先生 🎸
面白いのは、同じ曲でもジョビンとジョアンでコード進行が異なることがあるんです。ジョビンは作曲家として半音の動きを重視した繊細なハーモニーを書く。ジョアンは演奏者として、リズムとシンプルさを重視してコードを変えることがある。
大倉大倉 💬
作曲者の書いたコードを演奏者が変えてしまうわけですか。ジャズの世界ではリハモ(リハーモナイズ)として普通にやることですが、ジョビンの曲でもそうなんですね。
播磨先生播磨先生 🎸
そうなんです。だから「どちらが正しいコード進行か」という議論がときどき起きる。でも正解はなくて、ジョビンの視点で弾くかジョアンの視点で弾くかという選択なんです。
播磨先生播磨先生 🎸
実は、私自身は「ボサノバが好き」というより「ジョビンが好き」だったと最近気づいたんです。ジョアンの奏法に惹かれつつも、ハーモニーの美しさではジョビンに惹かれる。この2人の音楽を両方知ることで、ボサノバの奥深さが見えてきます。
大倉大倉 💬
ジョアンのアルバムで特におすすめはありますか?
播磨先生播磨先生 🎸
「エスタテ」が収録されているアルバムは聴いてほしいですね。クラウス・オガーマンの編曲が素晴らしくて、ジョアンのギターとオーケストラが見事に溶け合っている。ジョアンのギター奏法を聴き込むには最適なアルバムです。

ジョビン側のハーモニーの特徴についてはこちらで詳しく解説しています。


ジョビンの半音の魔法|内声の動きが生むボサノバの美しさ

まとめ — ジョアンの奏法を知ることがボサノバの第一歩

播磨先生播磨先生 🎸
ジョアンの奏法は、極限までシンプルです。パターン1だけで1曲弾く。ベースは動かさない。でもそのシンプルさの中に、誰にも真似できないグルーヴがある。ジョアンを知ることが、ボサノバギターの一番確実な出発点です。
この記事のポイント

① サンバをイーブンにした革命 — ハネを取り除き、テンポを落とし、ギター1本で新しい音楽を作った
② 基本パターン1がジョアンの核心 — これだけで1曲通すこともある。親指のアクセントが最重要
③ ベースラインは動かさない — ルート音は弾くが、ベースとして歩かせない。それがリズムの安定につながる
④ ジョビンとはコード進行が違うことがある — 演奏者と作曲家で異なるアプローチ。どちらも「正解」
⑤ シンプルの中に本質がある — ジョアンの奏法を知ることがボサノバの最も確実な出発点

大倉ギター教室のボサノバコースでは、ジョアンのスタイルを土台にしたリズムパターンの指導から始めています。「まずはパターン1をイーブンに」——ここから一緒にスタートしましょう。

播磨先生の演奏はYouTubeでもご視聴いただけます。

▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA

「ジョアンのようなグルーヴを出せるようになりたい」という方へ
播磨先生が、イーブンなリズムの感覚を基礎から丁寧に指導します。

無料体験レッスンはこちら

よくある質問(FAQ)

ジョアン・ジルベルトの奏法の最大の特徴は?
サンバのリズムを完全にイーブン(均等)にしたことです。さらにテンポを大幅に落とし、ギター1本で新しいリズムを作り上げました。この「イーブン化+テンポダウン」がボサノバ誕生の核心です。
ジョアンのリズムパターンは何種類ありますか?
基本パターン1が最も代表的で、ジョアンはこれだけで1曲通すこともあります。バリエーションはありますが、シンプルなパターンを完璧にイーブンに弾くことがジョアンスタイルの核心です。
なぜジョアンはベースラインを動かさないのですか?
ルート音は弾きますが、ベースラインとして動かさないのがジョアンのスタイルです。ベースを動かさないことでリズムの安定感が保たれ、イーブンなグルーヴが維持されます。ただし動かすこと自体は間違いではありません。
ジョアンとジョビンのコード進行が違うのはなぜ?
演奏者としてのジョアンと作曲家としてのジョビンでは音楽的なアプローチが異なります。ジョビンは半音の動きを重視した繊細なハーモニーを書き、ジョアンはリズムとシンプルさを重視してコードを変えることがあります。
ジョアンの奏法を学ぶには何から始めればいい?
まず基本パターン1をイーブンに弾くことから始めてください。メトロノームに合わせて均等なリズムで弾けるようになることが第一歩です。レッスンではジョアンのスタイルを意識したリズム指導を行っています。

播磨正明

監修:播磨正明(はりま まさあき)

大倉ギター教室 ボサノバギター専任講師。ギター歴40年超。高校1年でギターを始め、アントニオ・カルロス・ジョビンの音楽に衝撃を受けブラジル音楽に傾倒。1984年三原淑治氏に師事、1991年NYでJoe Beck氏・Rick Stone氏に師事しセッション参加。1993年LAでセルジオ・メンデス等ボサノバの名手と共演してきたJohn Pisano氏に師事。1994年より日本ボサノバギター第一人者・佐藤正美氏に師事し、大阪ライブで前座・共演を重ねる。2024年YouTubeチャンネル「Bossa Nova Guitar HARIMA」開設。
▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次