ボサノバを練習するなら、まず「本物の音」を知ることが大切です。しかしアーティストもアルバムも膨大で、何から聴けばいいか迷う方は多いのではないでしょうか。
今回は、かつてボサノバCD約400枚を所有していた播磨先生に、初心者が最初に聴くべきアーティストとアルバムを厳選してもらいました。アーティスト同士の意外なつながりも紹介します。
執筆:大倉甲(大倉ギター教室代表・ジャズギター講師歴20年)/監修:播磨正明(ボサノバ専任講師・ギター歴40年超)
目次
まず聴くべき3人 — ジョアン・ジョビン・アストラッド
大倉 💬
ボサノバを聴き始めるなら、まず誰から入るのがおすすめですか?
播磨先生 🎸
まずはこの3人です。ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、アストラッド・ジルベルト。この3人を聴けば、ボサノバの全体像がつかめます。
ジョアン・ジルベルト —『アモローゾ(Amoroso)』(1977年)
播磨先生 🎸
ジョアンを聴くなら、まず『アモローゾ(Amoroso)』をおすすめします。アレンジャーのクラウス・オガーマンによる洗練されたストリングスと、ジョアンのささやくような歌声、繊細なギターが完璧に溶け合っている名盤です。
大倉 💬
「エスタテ(Estate)」が有名ですよね。
播磨先生 🎸
「エスタテ」の美しさはもちろんですが、1曲目の「ス・ワンダフル(’S Wonderful)」から「ベサメ・ムーチョ(Bésame Mucho)」へ続く流れもロマンチックで、アルバム全体がうっとりするような空気に包まれている。ボサノバの枠を超えて、リラックスしたい夜に最高の1枚です。
播磨先生 🎸
正直に言うと、ジョアンの歌自体はそこまで好みではないんです(笑)。でもこのアルバムのジョアンは別格。オガーマンのアレンジがジョアンの声を最高に引き立てています。
ジョビン —『ウェーブ(Wave)』と『タイド(Tide)』
播磨先生 🎸
ジョビンは『ウェーブ(Wave)』から入るのが一番いい。これもオガーマン編曲で、ジョビンの美しいメロディとハーモニーを堪能できます。そして同じシリーズの『タイド(Tide)』も聴いてほしい。実はこの2曲、全く同じコード進行なのにメロディが全然違うんです。
播磨先生 🎸
ジョビンの歌は……上手くはないです(笑)。でもジョビンの曲はジョビン本人が歌っているのが一番いい。作曲者だからこそ出せるニュアンスがあるんですよね。
アストラッド・ジルベルト — 播磨先生が「一番好き」
大倉 💬
先生が一番好きなアーティストは誰ですか?
播磨先生 🎸
アストラッド・ジルベルトです。ジョアンの奥さんですね。軽やかで透明感のある歌声が、ボサノバの空気感を完璧に体現している。「イパネマの娘」の英語バージョンで世界的に有名になりましたが、他のアルバムもぜひ聴いてほしいです。
| アーティスト |
おすすめアルバム |
聴きどころ |
| ジョアン・ジルベルト |
アモローゾ(Amoroso)1977年 |
オガーマン編曲の至高の名盤。エスタテ、ス・ワンダフル収録 |
| ジョビン |
ウェーブ(Wave)/タイド(Tide) |
ジョビン本人の歌とオガーマン編曲。同じコード進行の2曲を聴き比べ |
| アストラッド・ジルベルト |
初期のアルバム全般 |
透明感のある歌声。ボサノバの空気感の体現者 |
ジョアンの奏法について詳しくはこちらで解説しています。
▶ジョアン・ジルベルトの奏法を解説|ボサノバギターの原点を知る
歌もので聴きたい — ナラ・レオンとエリス・レジーナ
大倉 💬
ギタリスト以外にも、聴いておくべきボーカリストはいますか?
播磨先生 🎸
ギタリストでも歌もののボサノバは絶対に聴くべきです。まずナラ・レオン。ボサノバ黎明期の中心人物で、歌ものとして本当に素晴らしい。
大倉 💬
ナラ・レオンとアストラッドには何か関係があるんですか?
播磨先生 🎸
実はアストラッドの師匠がナラ・レオンなんです。これは意外と知られていない。ナラの歌唱スタイルがアストラッドに受け継がれて、あの透明感のある歌声が生まれたと思うと、感慨深いですね。
エリス・レジーナ — 圧倒的な歌唱力
播磨先生 🎸
もう一人聴いてほしいのがエリス・レジーナ。エドゥ・ロボの「カサ・フォルチ(Casa Forte)」のエリスの歌唱は必聴です。最初はバラードで始まって、途中からリズムに入ったところがずっとシンコペーションでメロディが乗る。シンコペーションのノリを体感するのに最適な1曲です。
歌ものを聴くべき理由(ギタリスト向け)
ボーカルのフレージングからリズム感を学べる — 歌のタイミングがシンコペーションの教科書になる
メロディの美しさを知ることでコード感覚が磨かれる — ハーモニーはメロディあってこそ
ボサノバの「空気感」を耳で覚えられる — テクニックだけでは出せない雰囲気の源泉
ギタリストとして聴くべき — バーデン・パウエルとトニーニョ・オルタ
大倉 💬
ギタリストとして参考になるアーティストは、ジョアン以外に誰がいますか?
播磨先生 🎸
全く異なるタイプの2人を聴いてほしいですね。バーデン・パウエルとトニーニョ・オルタです。
バーデン・パウエル — サンバの太鼓をギターに持ち込んだ男
播磨先生 🎸
バーデン・パウエルは元々サンバのバンドで太鼓をやっていた人なんです。その打楽器的な感覚をそのままギターに持ち込んだ。だからリズムが根本的に違う。力強くてパーカッシブな演奏は圧巻ですが、正直に言って非常に難しい。真似するというより、リズムの引き出しを知るために聴くべきギタリストです。
トニーニョ・オルタ — ハーモニーの魔術師
播磨先生 🎸
トニーニョ・オルタはハーモニーセンスが抜群です。「Aquela Coisa Toda」という曲を聴いてほしい。内声がクロマチックに動く美しいハーモニーが特徴で、ボイシングの勉強になります。
大倉 💬
トニーニョ・オルタとパット・メセニーの関係は有名ですよね。
播磨先生 🎸
パット・メセニーはトニーニョ・オルタから強い影響を受けていると言われています。あの独特の浮遊感のあるハーモニーのルーツはトニーニョにあるんですよ。ちなみにトニーニョは爪なし派で、フラメンコギターを使い、コーラスエフェクターをかけて弾くスタイルです。
| アーティスト |
特徴 |
聴くポイント |
| バーデン・パウエル |
サンバの太鼓の感覚をギターに持ち込んだ |
パーカッシブなリズム。力強い右手のタッチ |
| トニーニョ・オルタ |
クロマチックな内声の動きが得意 |
ボイシングの美しさ。パット・メセニーへの影響 |
ジョビンの半音の動きとトニーニョのハーモニーの関係についてはこちらで解説しています。
▶ジョビンの半音の魔法|内声の動きが生むボサノバの美しさ
アーティスト相関図 — 誰が誰に影響を与えたか
大倉 💬
ここまで紹介してきたアーティスト同士のつながりを整理していただけますか?
播磨先生 🎸
ボサノバのアーティストは意外なところでつながっているんですよ。整理してみましょう。
【ボサノバ誕生】
ジョアン・ジルベルト(リズム革命)→ ジョビン(作曲)→ ボサノバ誕生
【師弟関係】
ナラ・レオン → アストラッド・ジルベルト(師匠→弟子)
【ハーモニーの系譜】
トニーニョ・オルタ → パット・メセニー(強い影響)
【アレンジャー】
クラウス・オガーマン — ジョアン『アモローゾ』+ ジョビン『ウェーブ』の名盤を支えた立役者
【独自路線】
バーデン・パウエル — サンバの太鼓出身。他の誰とも違うパーカッシブなギター
イヴァン・リンス — シンガーソングライター、ピアノ弾き。ギターはあまり弾かないがボイシングセンスが抜群
播磨先生 🎸
こうして整理すると、ボサノバは少人数の天才たちが密接につながりながら作り上げた音楽だとわかりますよね。1人を聴くと次に聴きたいアーティストが自然に見つかるんです。
播磨先生 🎸
実は僕もCD約400枚持っていたんですが、半年前に全部売ってしまいました。今はYouTubeで聴いているんですが……ちょっと後悔しています(笑)。でも今はYouTubeで気軽に聴ける時代なので、まずはそこから始めてみてください。
ボサノバの歴史的な流れについてはこちらで詳しく解説しています。
▶ボサノバの歴史|サンバからジョアンが生んだ革命
大倉ギター教室のボサノバコースでは、レッスンの中でおすすめの音源も紹介しています。「何を聴けばいいかわからない」という方も、講師が一緒に選びます。
まとめ — まず1枚聴いてみよう
播磨先生 🎸
CD400枚集めて、最終的に気づいたのは「自分はボサノバが好きなんじゃなくて、ジョビンが好きだった」ということでした。ジョビンのハーモニーの美しさに惹かれてここまで来た。まずはジョビンの『ウェーブ』から聴いてみてください。きっとボサノバの世界に引き込まれますよ。
この記事のポイント
① 最初の3人 — ジョアン(アモローゾ)、ジョビン(ウェーブ)、アストラッド。ここから入れば間違いない
② 歌ものも聴くべき — ナラ・レオンとエリス・レジーナ。リズム感と空気感を耳で覚える
③ ギタリスト枠 — バーデン・パウエル(リズム)とトニーニョ・オルタ(ハーモニー)
④ つながりを知ると深まる — ナラ→アストラッド、トニーニョ→パット・メセニーなど意外な関係
⑤ まずは1枚から — ジョビンの『ウェーブ』がおすすめの第一歩
大倉ギター教室のボサノバコースでは、「聴く」と「弾く」を両方大切にしたレッスンを行っています。播磨先生おすすめの音源を聴きながら、本物のグルーヴを体感してみてください。
播磨先生の演奏はYouTubeでもご視聴いただけます。
▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA
「本物のボサノバの音を知りたい」という方へ
播磨先生が、あなたの好みに合ったアーティストとアルバムを紹介しながらレッスンします。
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よくある質問(FAQ)
ボサノバ初心者が最初に聴くべきアルバムは?
ジョビンの『ウェーブ(Wave)』がおすすめです。美しいメロディとクラウス・オガーマンのアレンジで、ボサノバの魅力が凝縮された1枚です。YouTubeでも手軽に聴けます。
ジョアン・ジルベルトのおすすめアルバムは?
『アモローゾ(Amoroso)』(1977年)です。クラウス・オガーマンのストリングス・アレンジとジョアンのギター・歌声が完璧に溶け合った名盤。「エスタテ」「ス・ワンダフル」「ベサメ・ムーチョ」など名曲揃いです。
ボサノバの女性ボーカリストで聴くべき人は?
アストラッド・ジルベルトとナラ・レオンです。実はアストラッドはナラに師事しており、2人はボサノバ歌ものの系譜をつなぐ師弟関係にあります。エリス・レジーナの「カサ・フォルチ」も必聴です。
ギタリストとして参考になるボサノバアーティストは?
バーデン・パウエル(リズム感覚・パーカッシブな奏法)とトニーニョ・オルタ(ハーモニーセンス・クロマチックなボイシング)の2人がおすすめです。トニーニョはパット・メセニーにも強い影響を与えています。
ボサノバのCDとYouTube、どちらで聴くのがいい?
どちらでも構いません。まずは気軽にYouTubeで聴き始めるのがおすすめです。気に入ったアーティストが見つかったら、アルバム単位で通して聴くと曲の流れや世界観がより深く理解できます。
監修:播磨正明(はりま まさあき)
大倉ギター教室 ボサノバギター専任講師。ギター歴40年超。高校1年でギターを始め、アントニオ・カルロス・ジョビンの音楽に衝撃を受けブラジル音楽に傾倒。1984年三原淑治氏に師事、1991年NYでJoe Beck氏・Rick Stone氏に師事しセッション参加。1993年LAでセルジオ・メンデス等ボサノバの名手と共演してきたJohn Pisano氏に師事。1994年より日本ボサノバギター第一人者・佐藤正美氏に師事し、大阪ライブで前座・共演を重ねる。2024年YouTubeチャンネル「Bossa Nova Guitar HARIMA」開設。
▶ YouTube:Bossa Nova Guitar HARIMA